SYNCHRONICITY ‘22 注目の5組に迫る|BREIMEN / 鋭児 / saccharin / Bialystocks / Monthly Mu & New Caledonia ライブレポート

三橋 温子

三橋 温子

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渋谷のまちに音楽が戻ってきた——。3年ぶりの有観客開催となった名物サーキットフェスに多くの音楽ファンが集う光景を見て、思わず心を打たれた。

5会場・6ステージで2日間にわたり開催された都市型ミュージック&カルチャーフェス『SYNCHRONICITY(シンクロニシティ)‘22』。チケットは当日券含めソールドアウト。参加者はみなマナーよくライブを観たり列に並んだりしつつも、苦難を経て開催された久々のフェスに浮き立つ心を隠せずにいる、そんな様子が見てとれた。

2005年の初回開催時から、時代の先を行くエッジーなアーティストをブッキングし続けてきたSYNCHRONICITY。今年も70組を超えるアーティストが出演した。今回はそのなかでもとくに注目度の高い旬な5組を、当日のライブレポートとともに紹介する。

cover photo by 木下マリ, 大塩ハチ, Momoko Maruyama


saccharin

ドラマー松浦大樹と7人が起こした化学反応

4月2日(土) clubaisa

saccharin

photo by 木下マリ

clubasiaの仄暗いステージに8人の姿が並ぶ。各々のサウンドチェックの音がフロアに散乱する。この音たちがどう融合してどんな化学反応を起こすのか、誰もが固唾を飲んで見守っているような不思議な緊張感のなか、楽曲『MK』の短いリハを経てステージは幕を開けた。

人工甘味料の名を冠するsaccharin(サッカリン)は、She Her Her Hersのドラマーである松浦大樹(たいき)が歌うソロプロジェクト。つい先刻、O-EASTのTENDREのステージでドラムを叩いていた彼とは別の顔で、『Kaishin』を歌い始める。“歌う”という表現が正しいのかはわからない。“語る”とも“吐露する”とも“そこにある”とも形容できる独特の歌声が、ほかの楽器の音色と混じり合ってsaccharinの音楽を構成している。

saccharin

photo by 木下マリ

『Taion』では、スナックを営んでいた母から「人の適温を探して体温を合わせなさい」と教えられ育ったという松浦の温かな言葉たちが、Dr.So Kanno(BREIMEN)が刻むハーフタイムシャッフルの心地いいリズムにのって耳に届く。途中、「調子はどうだい?」とメンバーに尋ねてサビの〈体温合わすよ 適温探してる〉を歌ってもらうというライブ恒例のフリを挟み、Key.TENDRE、Ba.高木祥太(BREIMEN)、Cho.AAAMYYY(Tempalay)が順に歌声を披露。「みんなはどうだい?」と振られ心の内でレスポンスしながら、ライブで大合唱できる日が再来することを改めて切に願った。

saccharin

photo by 木下マリ

「ここにでっかい炎をつくるイメージでつくった曲を歌うから、みんなの拠りどころになったら嬉しい」。そう語った『Kagaribi』ではSax./Fl.小西遼(象眠舎、CRCK/LCKS)のフルートが美しく響き、『OM3』では途中リズムチェンジしてゲストのNAGAN SERVER(DUENDE)が加わりラップを披露。コロナ禍で感じた憤りを造語「思想化石」に込めた『Shisoukaseki』ではダンサーUNOが加わるなど、もはや豪華絢爛というべきステージだった。

「出生の歌です」と短く前置きし、ラストは『MK』。〈魅力と欠点は同じだと言ってください〉と、淡々と、だが切実に歌う松浦の音楽は、心をえぐる鋭利さと、そっと瘡蓋で包んでくれるようなやさしさを併せもつ。Gt.Fahlberg(実はサッカリンを発見した化学者の名のようである)のギターにGt.高橋健介(LUCKY TAPES)のソロが重なり、〈このままでいいかな〉と松浦が振り絞るように歌いきる。チームsaccharinの化学反応の余韻は、そのあともしばらくフロアから消えなかった。

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BREIMEN

ファンク、ロック、ジャズ、メタル…あらゆる音楽を縦横無尽に操る

4月3日(日) clubaisa

BREIMEN

photo by 大塩ハチ

Vo./Ba.高木祥太とDr.So Kannoがアイコンタクトをとりながらリズムを刻み、短いオープニングのあと『IWBYL』のイントロが始まった。Princeの『I Wanna Be Your Lover』を連想させるこの楽曲は、バンド名を無礼メンから改名したタイミングでリリースした1stアルバムのリード曲。ミクスチャーファンクバンドと称されることの多い彼らの名刺代わりといえる曲だ。

2018年の初代ボーカル脱退を機にボーカリストとなった高木。だが、フラメンコギタリストの父とフルート奏者の母をもつサラブレッドならではの音楽センス(音楽を始めたのは高校時代のようだが)、ロマンティックな歌詞に〈insta〉〈IKEA〉といったリアリティあるワードをさらりと組み込むバランス感覚、コミカルさとセクシーさを併せもつキャラクター、生まれながらのフロントマンであるようなカリスマ性が彼には備わっている。高木だけでなく、メンバー全員が名だたるアーティストのサポートを務めており、実力派という言葉が陳腐に聞こえるほどの実力派バンドである。

BREIMEN

photo by 大塩ハチ

際どいタイトルと歌詞の3曲目『脱げぱんつ』では、高木が〈この先ずっと笑う?〉を〈戦争反対〉に変えた直後、ライブバージョンのアレンジに突入するはずが全員の音が止まってしまうというハプニングが。束の間の無音と笑いのあと、すぐにKannoがドラムを入れ、Sax.林洋輔がソロを伸びやかに響かせる。このようなテイクはBREIMENのライブでは珍しくない。ジャムセッションからスタートしたバンドだけに、イレギュラーな事態もその場限りの音を楽しむ機会に変えてしまう不思議な力を感じた。アウトロを彩るGt.サトウカツシロの歪みリフがまたカッコいい。

ハンドクラップから始まるファンクわらべ歌『あんたがたどこさ』、Key.池田優太の『ねこふんじゃった』から始まり予想外に展開していくまさにミクスチャーな意欲作『CATWALK』など、ファンクからロック、ジャズ、メタルまで多彩なジャンルを縦横無尽に行き来する彼ら。ラストは2ndアルバム表題曲『Play time isn’t over』。変拍子を自在に操る全員のテクニックと、池田のハイトーンのコーラスを交えた夢想世界のような広がりに、フロア全体が酔いしれた。

BREIMEN

photo by 大塩ハチ

MCタイムでサトウに「お前、最近イベントで自信ない発言するよな」と突っ込まれ、「いや、もともと自信はあるけど、最近のBREIMENのライブいい感じじゃん? いろいろシステム変えて。俺は天邪鬼だから、自信がついてきてるからこそ裏返しになっちゃってる。本当は自信満々」と答えていた高木。彼らはあっという間に時代を代表するバンドになるだろう。いまこの瞬間しか味わえない進化の過程を、ライブハウスでぜひ見届けてほしい。

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鋭児

高次元で結合するバンドサウンドとエレクトロサウンド

4月3日(日) O-EAST SECOND STAGE

鋭児

photo by Momoko Maruyama

16人もの男たちが凝縮するアー写を見て、度肝を抜かれたのが2021年。1st EP『銀河』が話題になり、本当のメンバーは6人であることが明らかになり(現在は5人)、全国のイベントやフェスに出演するようになるまでわずか1年。「彗星のごとく現れる」というたとえがこれほど適したアーティストがほかにいるだろうか。

2019年に渋谷のストリートでセッション中に出会い活動開始、2021年にAGEから改名し、音源リリースやライブを精力的におこなうようになった鋭児(えいじ)。Vo.御厨(みくりや)響一、Gt.及川千春、Ba.菅原寛人、Key.藤田聖史、Dr.市原太郎。それぞれ別バンドやソロ、楽曲提供などの活動を並行している。ミクスチャー×エレクトロの研ぎ澄まされたサウンドに耳を奪われるリスナーはすでに多く、集まったオーディエンスの数はSECOND STAGEでもっとも多かったのではないかと思う。

鋭児

photo by Momoko Maruyama

ムーディーなインストの途中で御厨がステージ下から登場し、テンポアップののち1曲目『突然変異』へ。御厨の変幻自在のボーカルが炸裂し、及川は口で弦を弾くなどしょっぱなからギアを上げる。音源とはかなり印象の違う爆発力あるアレンジで、フロアを瞬時に鋭児色に染めた。「いつもどおりジャムしてくんで、お酒飲みながら遊びましょう」という御厨のMCのあと、披露されたのは4月リリースの新曲『IGNITE』。ミニマルなビートからメロディアスに変化する劇的な構成で、いまの世界情勢に対するメッセージを〈We don’t need war〉と歌いあげた。

「森羅万象は等しく生命をもっている」と語る御厨のインタビューを読んだことがある。その信条は彼の書くリリックや曲の節々に繊細に表れているように感じる。

鋭児

photo by Momoko Maruyama

イントロを長めのセッションで魅せた日本語詞の『Zion』。御厨がサングラスを外しパーカを脱ぎ捨て、意外にもタトゥーのない(見える範囲では)つるりとした上半身を見せつけながら投下した、MuseやBlurなどUKロックの影響を思わせるキラーチューン『$uper $onic』。そしてその熱を維持したまま最後まで駆け抜けた『Fire』。もち時間の30分が瞬く間に過ぎた。終了後、まさに“もぬけの殻”状態に陥っていたわたしの耳に、あちこちから「鋭児ヤバイ」という興奮さめやらぬ声が聞こえてきた。

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Monthly Mu & New Caledonia

真のライブバンドがぶちかました圧倒的熱量のステージ

4月3日(日) O-EAST SECOND STAGE

Monthly Mu & New Caledonia

photo by Momoko Maruyama

「はっじめーるよー!」とVo.門口夢大(むだい)が叫び、Gt.若林達人のカッティングでステージは幕を開けた。音源からはかなりアレンジされているライブチューン『HAGEDARUMA』。フロアから瞬時に拳が突き上がり、彼らがライブバンドであることをほんの数秒で思い知らされる。

2018年に門口がネットでメンバーを募り、2019年からライブ活動を開始したMonthly Mu & New Caledonia(マンスリームー・アンド・ニューカレドニア)。最初の顔合わせでセッションしたのはD’Angeloだったらしいが、5人のルーツはロック、エレクトロニカ、ヒップホップなどさまざまで、トレンドは取り入れつつもジャンルにとらわれない音楽性がバンドの魅力である。

Monthly Mu & New Caledonia

photo by Momoko Maruyama

フロアを一瞬でダンスホールに変えた踊れるミディアムナンバー『U&F』は、ジャムでつくりあげたという1曲。若林のワウ系ギターソロにBa.小笹龍華(りょうか)のウォーキングが重なるところなんかは、あまりのセンスのよさに悶絶してしまう。座り込んでエフェクターを操作しながら繊細な音を奏でるGt.鈴木龍行(りゅうこう)、怪我で療養中のDr.武亮介(6月23日付で脱退を発表)に代わって自在にビートを操った元RAMMELLSの彦坂玄、そしてそれらの音に決して埋もれない華がある門口のボーカル。全員の個性が色濃く現れていた。

『おどけて』『El Sol』など人気曲を立て続けに披露し、門口が語り始める。「今日誘ってくれた主催の麻生さんは、1月にTOKIO TOKYOでライブをやったときに楽屋に来て『お前ら、かましてくれ!』って言ってくれて、俺らはいまここに立ってる。本当にみんなに会えてよかったよ!」。麻生氏が「コロナの中の鬱屈とした雰囲気を熱量でふっ飛ばしてくれた」と絶賛した彼らのライブは、音楽を愛する人たちの汗と体温と多幸感に満ちたコロナ前のライブハウスを鮮明に思い起こさせてくれた。正直、泣きそうになった。

Monthly Mu & New Caledonia

photo by Momoko Maruyama

鈴木のギターからラストナンバー『Jamaica』が始まる。フジロックの真昼のGREEN STAGEで聴きたくなるような開放感あふれるサビで会場がひとつになる。一度音楽をやめてレコード会社に勤めていた門口が再びバンドを組むことになったのは、ACIDMAN大木伸夫が彼の才能を見抜き、助言したことがきっかけだったそうだ。2バンドは2020年の配信ライブで共演しているが、近い将来、生のステージで対バンが観られることを期待する。

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Bialystocks

美しい歌とピアノで普遍的な原風景を描き出す

4月3日(日) O-EAST SECOND STAGE

Bialystocks

photo by Momoko Maruyama

ヒートアップしたこの日のSECOND STAGEを柔和に締めくくったのは、2人組バンドのBialystocks(ビアリストックス)。映画作家のVo./Gt.甫木元空(ほきもと・そら)とジャズピアニストのKey.菊池剛(ごう)が織りなすジャンルレスで美しい原風景のような音楽は、リスナーはもちろん業界人の注目度も高い。新曲『差し色』は向井理・北村有起哉出演ドラマ『先生のおとりよせ』のエンディングテーマにも起用されている。

ピアノと歌のみから始まる『花束』で、シンプルなメロディの普遍的な美しさを早くも証明した彼ら。一度聴いただけで口ずさめるメロディラインを甫木元が伸びやかに歌いあげ、菊池のコーラスとキーボードがやさしく寄り添い、サポートバンドがテクニックでしっかりと支える。全体を通して休符づかいにハッとさせられる『またたき』では、甫木元の突き抜けるようなhihiC#の高音と、直後の束の間の静寂にすっかり心を揺さぶられた。菊池のジャジーなピアノもセッションを聴いているみたいに臨場感がある。

Bialystocks

photo by Momoko Maruyama

甫木元の監督映画『はるねこ』の生演奏上映を機に活動をスタートしたというBialystocksには、バンドというよりアーティストユニットのような印象を抱く。多摩美術大学の映像演劇学科を卒業した甫木元は、高知県四万十町に住みながら映画制作やアート事業のディレクションを手がける。一方の菊池は、東京を拠点に国内外でジャズピアニストとして活動し、アーティストのサポートや劇伴も務める。各々が自身の活動で得た経験やインスピレーションをもち寄って共同で作品をつくりあげる、そんなイメージだ。

きっといずれは、甫木元の映画をライブに組み込んだ演出や、音楽活動を別のかたちで表現した個展など、クロスオーバーで革新的なアウトプットに挑むのではないか。同じく美大出身のわたしにはなんとなく(勝手に)共感できる部分がある。2000年代に開催されていたACIDMAN主催イベント『Cinema』を思い出した。Bialystocks主催の新たなイベントにもぜひ期待したい。

Bialystocks

photo by Momoko Maruyama

がらりとテイストが変わる『I Don’t Have A Pen』では、なにかに追われるような緊迫感のあるピアノからソウル風のサビへ展開していくスケールに圧倒された。往年のミュージカル映画『くたばれ! ヤンキース』に影響を受けたという『Over Now』は、どこか切なくも前向きなメロディが終始いい。そしてラストは甫木元が今日初めてギターをもって歌い始めた『Nevermore』。〈なもなき 夕立は/いつも 突然 晴れ間をよぶ〉という歌詞を彩るように虹色の照明がステージを照らした。これ以上ないほどに清々しく、満ち足りたエンディングだった。

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(取材/文・三橋温子)


SYNCHRONICITY ‘22 Playlist

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SYNCHRONICITY ’23
2023年4月1日(土)・2日(日)に開催決定!
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