【Sazanami】「人の心を掬い上げるような音楽を届けたい」ざわめく自己世界へのラブレター

横堀 つばさ

横堀 つばさ

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2024年に始動した大阪発の4人組・Sazanamiは、途方もないほどに広大な空を見上げ、自分の矮小さに傷ついている。目まぐるしく流転する世界の速度に追いつけず、理想で満ち溢れていた自己の世界が崩壊の音色を奏で始めていく。そんな中、縋ったバンドという表現によって、彼らは自身の世界を少しずつ塗り替え、手に収まっている健やかな幸福の蕾に水を与えられるようになった。

2025年2月15日(土)にリリースされた4thシングル『白色の国』を皮切りに、アルバムを建国せんとしている彼ら。そんなSazanamiの根っこを問うバンド初インタビュー。


体温の通った生活と広大な世界の上で鳴らされるSazanamiの讃美歌

「大学時代にコピーバンドを組んでおり、社会人になるタイミングで自分たちの音楽をやりたいと思い、Sazanamiを結成しました。そのため、Sazanamiの始動からは1年ですが、付き合いとしては5年ほど一緒に音楽を楽しんでいた仲間です」

2024年に時計の針を動かし始めた大阪発のオルタナティブロックバンド・Sazanami。

オガワタクミ(Vo./Gt.)とヒロセレン(Gt./Cho.)、コウリュウイ(Ba.)、キラリ(Dr.)の4名が生み出す音楽は、静謐なアルペジオや水の中に包まれているような広がりを見せる轟音を武器としているが、その背後にはきのこ帝国をはじめとするバンドたちが存在しているという。

「個人的にはジャンルレスに音楽を聴き漁っているものの、バンドとしては、きのこ帝国やリーガルリリー、kurayamisaka、CRYAMY、Hue’s、ひとひらなどから影響を受けていると感じています」(オガワ -Vo./Gt.)

「どんな音楽にも影響を受けやすいので、バンドだけではなく幅広く気分に合わせた音楽を聴いています」(キラリ -Dr.)

「ジャンル関係なく心が震えるような、踊るような音楽が好きです。そんな音楽ができたらなと思います」(ヒロセ -Gt./Cho.)

「本当に多くのバンドの影響を受けていますが、今のSazanamiに繋がっているところでいうと、ひとひら、downt、きのこ帝国、雪国です。自分がオルタナというジャンルに浸かったきっかけであり今でもずっと聴いている大好きなバンドたちです」(コウ -Ba.)

オルタナティブなバンドシーンの血を引くSazanamiは2024年1月に『憧憬観測地点』、4月に『星』、6月に『銃声への応答』と、活動1年目にして3枚のシングルをリリース。

以前、筆者はこの3枚を「生命が終わり際に放つ一度限りの煌めきを放っている」と本マガジンの記事で紹介したが、彼らの楽曲は宇宙や季節、夜空といった壮大な自然とちっぽけな自分の存在が対照的に描かれている。

「曲を作るときには、“生活”と“人”、大袈裟になりますが“世界”の3つを大事にしています。人の人らしさや、相対的に広大すぎる景色、空。あとは、生活の周辺にある意識していないものとか。全ての人が享受しているはずのものが、当たり前ではなくなっている感覚があり、自分を含めてそういう人たちを狭い生活や心の世界から掬い上げたいという思いがあって曲を書いています」(オガワ)

ピュアな世界へ回帰する4thシングル『白色の国』

そんなSazanamiが2025年2月15日(土)にリリースした4thシングル『白色の国』は、淡々と紡がれるギターが降り積もる雪景色を喚起しながら、四つ打ちのリズムで構成されたサビで光に満ちた冬の街を描いていく1曲だ。

とはいえ、リフレインされる〈殺して戻した頃 捉えた命の国〉のラインからは、白銀の世界に独り取り残されたような感傷が垣間見える。自らを押し殺したり、どうにか腕を前へ伸ばしながら泳ぐ中で、カーテンから朝日が漏れ出るみたいに段々とアンサンブルのボリュームが上がっていく。だからこそ、最後に綴られる〈掴んで愛した頃 迎えた白色の国〉の一行が慈愛を持って響いてくるのだ。

「『白色の国』は生活していく中での人の心、特に心を閉ざしてしまった人や本心を隠して見失ってしまった人の世界を描いた曲です。

心の中の世界が生まれたときは真っ白な箱で、命が吹き込まれ陽が昇ると何もない世界に影が落ちて、正と負の感情が生まれる。悲しみに降られ、光を失い、外の景色も見られずに広い世界が見えなくなった人が、初めは自分の理想を描いていく。
でも、少しずつその理想を隠すように塗り重ねたり、壁天井まで埋め尽くされた自分の世界に水を足したりしながら、ぐちゃぐちゃに全部の落書きを混ぜた結果、深い一色の黒になってしまう。昔描いた理想やこれまでの出来事を隠して、誰にも本心を見せないようになってしまう。

そんな世界を殺して深くまで潜り込むと、塗りつぶす前の世界を見つけることができて、途中で止まっていた絵を描き直したら、ようやく外の世界と繋がることができる。自分の世界を愛せたら、上書きじゃなくて、もともとの世界を持った上で2つ目の世界を始められる。そんなイメージでこの歌を書きました」(オガワ)

他者への救いとして鳴り始めた、自分を愛するための歌

〈幸せは何分割されて 私に与えられているのだろう〉と自問した末に〈渇愛にさよならを〉と、溢れかえるほどの愛情を希求するのではなく、この手に乗っているささやかな幸福を抱きしめる『憧憬観測地点』。

〈くだらない旅 価値に気付いている 誰が後方で嘲笑っても そう 歩いて行こう〉と卑近な人生の輝きを見つめ直し、誰にも邪魔されることなく胸を張って進まんとする『星』。

命を奪いかねない鋭さに負けじとギターを掻きむしり、〈沈んで 深く 根を張りいのちを芽吹く 春を迎えよう〉と深層へ栄養を与える『銃声への応答』。

「自分の世界を愛せたら」という切なる願いは、『白色の国』に留まることなくSazanamiの音楽に一貫して流れている。

「誰でも当てはまる部分はあると思うんですけど、ライブハウスに来る人や音楽が好きで僕たちの音楽を見つけるような人って特に、底抜けに元気いっぱいで、悩みのない人なんていないと思っていて。不安や心の不安定さ、嫌なことを何が原因かも分からないくらいに漠然と抱えていて、そんな沈んだ心に与える一種の救いとして音楽を好きでいる人が多いと思っているんです。自分もそうだったので。

だから、僕は全ての人に届ける音楽よりも、そういった人の心を掬い上げるような音楽を届けたいし、ライブではその人の心を実際に少しでも波立たせられるように伝えたいと思っています。現実から目を背ける時間でもいいし、幻想を描く時間でもいいですし。せめて自分の音楽を好きでいてくれている人たちが、次の日もその次の日も生きていてくれたら。そんな自分勝手なことも考えてしまいます」(オガワ)

現在、アルバムのリリースに向けて制作を進めているというSazanami。泡立ち始めた水面は、私たちの日常に潜む小さな絶望を反射している。

(取材/文・横堀つばさ)


PROFILE

Sazanami(さざなみ)

大阪発のオルタナティブロックバンド。メンバーはオガワ タクミ(Vo./Gt.)、ヒロセ レン(Gt./Cho.)、コウ リュウイ(Ba.)、キラリ(Dr.)の4名。2024年1月に1st Single『憧憬観測地点』をリリースとともにバンド活動を開始。その後ライブを中心に活動しながら、2nd Single『星』、3rd Single『銃声への応答』、そして今年2025年2月に4th Single『白色の国』をリリース。水の中のような広がりのあるサウンドから、荒々しく鳴り響く轟音のコントラスト。大切な言葉たちを乗せて深い海の底から掬い上げるように。生活と人に寄り添う救ってくれるような世界を魅せる。

メンバー

オガワタクミ(Vocal / Guitar)
ヒロセレン(Guitar / Chorus)
コウリュウイ(Bass)
キラリ(Drums)

活動開始

2024年

主な活動拠点

大阪府

HP / SNS

X @Sazanami_band
Instagram @sazanami_band

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