関西のライブハウスを運営するアームエンタープライズ内に、大阪の音楽シーンの発展を目指して旗揚げされた“KAZAANA”というチームがある。2024年3月、“KAZAANA”に参加したアーティスト16組によるフィジカル限定のコンピアルバムがリリースされて話題となった。
リリース後にはコンピアルバムを引っ提げての日本全国ツアーと、参加バンドそれぞれが企画する各ツアーファイナルが開催されたのだが、それで終わりではない。各ツアーファイナルを経て選抜された7組が集結し、8月29日にBIGCATで「KAZAANA ‘24 FINAL」が開催されることが決定している。
大阪発ロックバンド・Uncurtain(アンカーテン)も、この“KAZAANA”に参加した1組である。大阪・東京・名古屋・広島でのツアーの集大成として、7月4日にOSAKA MUSEにて、“風穴をぶちあけるツアー’24” Tour Final「Least in Peace」を開催。その結果、関西の若手バンドなら皆憧れるBIGCATへの出演権を見事手にした。
今回は、彼らの覚悟の1日となった「Least in Peace」のステージをレポート。ゲストにはCAT ATE HOTDOGSと板歯目を迎え、3組の個性がバチバチにぶつかり合った。
CAT ATE HOTDOGS
テクニックと爆発力を見せつけたトップバッター
「オーサカミューーーーズ! KAZAANAファイナルおっ始めに来ました、CAT ATE HOTDOGSです!」
開幕早々、爆音と共に高らかにひこ(Vo./Gt.)が叫んで、CAT ATE HOTDOGS(キャットエイトホットドッグス)のステージは『Drops』からスタートした。演奏の“動”だけではなく、時折見せる“止”の部分でも会場をガッチリ掴む——そんなテクニカルな魅力を初っ端から見せつける。彼らにとって結成初期から演奏されている曲であるが、みや(Dr.)のコーラスがいつも以上に効果的に聴こえたのは、これまで妥協なく演奏し続けてきたひたむきさの賜物だ。
「最高の日にしようぜ! よろしく!」と言って続けたのは『Spins Keen』。こちらは先日から会場限定盤で発売されたデモ作品集『camp e.p2』に収録されている楽曲。はなっぺ(Ba.)がボーカルを務める部分もあって、ひことの剛柔豊かなマイクワークを楽しめた。青色から激しい点滅に変わる照明も、曲の情感部分を強調する。
その余韻を打ち消すかのように、みやのミサイルのようなドラムが鳴らされて始まったのは『白昼夢』。ひこの捲し立てるようなボーカル効果もあり、ゴリゴリと進んでいくサウンドに会場のテンションも上がっていく。
「今日KAZAANAの詳細もいろいろ聞かせてもらって、コテコテやなと思って、めっちゃええイベントに呼んでもらいました。ありがとうございます」とひこが感謝した後、『JOKE』が始まった。ノらずにはいられないサウンドに、途中ゆったりとしたメロディが入るのがニクい。そこからサビのキャッチーさが人気な『魔法をかけて』へ。少しギタートラブルが生じるもサラッと対応し、おもちゃ箱をひっくり返したような軽快でワクワクするサウンドを響かせる。
楽しい気分のまま、6曲目は新曲『渚の秘密』。タイトル通り、ビーチで流れてほしいPOPなメロディが印象的だ。快晴を思わせるような青の照明もあれば、海上の夕陽を思わせるようなオレンジの照明もあって、夏すぎる。そのアウトロから、ひこがギターの呼吸を整えるように鳴らしながら繋いで始まったのは、こちらも新曲『Cinder』。BPMを三者三様に自在に扱いこなす様に、何度“やられた”だろうか。
演奏後、みやから一定のリズムのドラムが鳴らされると、はなっぺのベースと「ありがとー!」の一言、そしてひこのギターと「缶蹴りしようぜ!」の合図で『CANKERI』がスタートした。安定したリズムは変わらず心地よく、童心にかえるような歌詞もいい。
続く『群青』も、みやのドラムの繋ぎから入ったが、今度はより一層強く低い打撃音。ギターもまた違う音色で、フロアの空気が少し変わった。終盤戦に来て心から叫びたくなるナンバーの登場。後輩バンド2組にバチバチとプレッシャーをかけていくようだ。
そしてラストは『カラッポ。』。ノリやすい小気味のよいサウンドに力強い歌声、突然入ってくる卓越した間奏。特筆すべきは、ラスサビ前にひこが初めて「OSAKA MUSE! 俺に拳を見せろー!」と明確にフロアを煽ったことだ。それに応えるようにこれまでで最も多くの拳が上がり、ライブは終了した。
CAT ATE HOTDOGSは、とにかく演奏がテクニカル。それでいて音の爆発力もある。現在リードギターのおざきは休養中で、過去曲も含めスリーピースで鳴らされているが、さすがの経験値でカバー。コーラスの部分などは、逆に今だからこそ際立つ魅力かもしれない。
ひこの歌声も特徴的だが、楽曲が持つ表現力も豊か。もしライブ中に歌詞を可視化できるなら、恐らく曲ごとに、いや曲の中でも多種多様なフォントが使われるに違いない。歩みを止めない彼らの音楽力の高さと強さをガッツリ感じた40分だった。
【Setlist】
1. Drops
2. Spin Keen
3. 白昼夢
4. JOKE
5. 魔法をかけて
6. 渚の秘密
7. Cinder
8. CANKERI
9. 群青
10. カラッポ。
板歯目
どんな生命体をも楽しませる、本能剥き出しのサウンド
2組目は板歯目(ばんしもく)。千乂詞音(ちがしおん、Vo./Gt.)、庵原大和(いおはらやまと、Dr.)に、関西でのライブではお馴染みのサポートベース・ぱんだ(Viewtrade)を迎えたスリーピースだ。
演奏時間になるやいなや、リハから板付の3人はノーモーションで爆音を鳴らす。1曲目の『オリジナルスクープ』から全身で激しくリズムを取り、血湧き肉躍るのを抑えきれない様子だ。サビの〈アイデンティティ〉というフレーズには中毒性があり、会場のノリも高まって一気に拳が上がる。
先ほどまで鬼気迫るように歌っていた千乂がつぶやくような歌い方に変わり、2曲目は『沈む!』。徐々に演奏の熱が上がっていき、〈花見へゴー!海へゴー!焼き芋ゴー!イルミネーション!〉というサビのフレーズが繰り返されるたびに彼らの魅力にハマっていく自分がいた。『ラブソングはいらない』では、〈エマージェンシー!!!〉という歌詞に相応しいサイレンのような照明がステージを照らす。赤と緑が忙しない照明に照らされながら歯止めの効かないパワーを持って演奏する3人は、たしかに危険人物なのかも。前半の3曲で破壊力は十二分に示された。
MCでは、KAZAANA関連のツアーファイナル出演がEVE OF THE LAINに続いて2回目となったことに感謝する千乂。Uncurtainとは、力輝(りき、Vo./Gt.)のバイト先に偶然行ったことから仲良くなったらしく、バンドで共演できることへの嬉しさも語った。
「唯一の東京組として頑張ります」と話した後、1、2、3、4のカウントで始まったのは『Ball&Cube with Vegetable』。随一のダンサブルなナンバーで、フロアはピースフルな雰囲気に。続く『オルゴール』では優しげなギターの音色が耳を撫で、突然の変調があったと思ったらセッションのような間奏で楽しませてくれた。まるで3人のプライベートな音遊びに混ぜてもらっているかのようで、こちらも楽しい気分になる。
続く『芸術は大爆発だ!』では、「とはいえ一番楽しいのは3人なんだろうな」と思わずにいられないくらい千乂が良い笑顔で歌う。途中、千乂がセンターでギターを弾き倒すシーンや、庵原がシャウトするシーンも。本能剥き出しでいてくれる姿に、こちらももう素っ裸です(心が)。
後半戦は最後までノンストップだった。板歯目がその名をライブハウスシーンに知らしめた曲『まず疑ってかかれ』で、会場のノリは一段とアップ。庵原の高速ドラム、千乂の叫びにも似たパワフルな歌声、ぱんだの野生味のあるベースも全く威力が落ちない。その勢いのまま続いた『ちっちゃいカマキリ』では、今日イチの甲高いギターが鳴り響き、疾走感のある演奏はまだまだフロアを飽きさせない。途中小声になったり声色が変わったりするボーカルも聴きどころ満載だった。
そして超絶ベースメロディの入りから始まったのは『SPANKY ALIEN』。弾いていない時の千乂のジェスチャーも豊富でステージ上から目を離せない。ここまでの楽曲の歌詞には沢山の動物が登場しているのだが、板歯目の音楽は、相手が爬虫類だろうが虫だろうが、最終的には宇宙人だろうが、フラットに楽しませてしまう力がある。この3人はおそらく人間でなくても音楽をしていたんじゃないだろうか。たまたま同じ人間という生き物に生まれて今日この場にいられた、自分の幸運に感謝したい。
最後は『地獄と地獄』。いわゆるバズ曲にもなったこの曲。超絶早口パートも、サビの「オッオー!」の掛け声も、フロアとの一体感は秀逸。まさに、めでたしめでたし。この夏も様々なライブが決まっている板歯目だが、オーディエンスの誰よりも音楽を楽しむ彼らを見て、夏の暑さを吹っ飛ばしましょう。
【Setlist】
1. オリジナルスクープ
2. 沈む!
3. ラブソングはいらない
4. Ball&Cube with Vegetable
5. オルゴール
6. 芸術は大爆発だ!
7. まず疑ってかかれ
8. ちっちゃいカマキリ
9. SPANKY ALIEN
10. 地獄と地獄
Uncurtain
更なる高みへの挑戦を約束した、堂々たるステージ
荘厳なSF洋画のようなSEで登場した主役のUncurtain。力輝(Vo.)は多くの人が集まったフロアを見渡し思わず笑みを溢したが、「全員来い」という一言と共に、『不整命』をスタートさせた。ヘヴィーなロックサウンドに神秘さも潜む同期、神に縋るような歌い方かと思えばいきなり悪魔が憑依したかのように豹変するボーカル、そこにしょうや(Sp./Gt.)のギターソロも鳴り響き、早速フロアを圧倒する。
2曲目に入る前に力輝はこう話した。「板歯目、CAT ATE HOTDOGSとのスリーマン。今日の今日まで負ける負けると言われ続けてきました。なんでこのスリーマンなのか、最後に俺らが証明して帰ります」「『Uncurtainも良かった』とかそんなんじゃないんで。Uncurtainヤバかったって言わせて帰ります」。
その覚悟表明と共に鳴らされたのは、自身初のMV曲でもある『傷口』。ハナから次のことなど考えていないような、叫び、がなり、時に高らかに伸びやかに響かせるボーカルが、アングラな雰囲気ながらもドラマチックな展開のバンドサウンドと重なる。ステージのセンターに立ち逆光の中で歌う力輝の姿は、神々しささえあった。
力輝の「楽しんでますか!?」との問いかけに、早くもフロアは最高潮。「こんな日だからこそ俺らは全力で楽しんで帰りたいと思ってます! 最高の、最高の夜にしよう」というMCから、『天の扉』が始まった。一転して爽やかなサウンドが広がり、オーディエンスは頭上でクラップ。竹川(Ba.)のベースラインの音色も良いエッセンスに。ラストはシンガロングもあり、キラキラとした空間が生まれた。
「さらにノリ方を変えていきましょうか」と言って続けたのは『Finder』。ムーディな色気がブワッと漂い、力輝もややラップのような歌い方でグルーヴを広げる。曲の初めに「自己紹介」と言っていた通り、しょうやのギターソロ、竹川のベースソロ、泰心(Dr.)のドラムソロが入り、自由自在でレベルの高い演奏にフロアは酔いしれた。
しばし沈黙し、一節歌った後、力輝は「大切な人、大切だった人を思って聴いてください」と告げてバラードナンバー『呼縁』を披露。悲愴感がありながらも感動的なバンドサウンドと情感たっぷりのボーカルが涙を誘う。今までの空気が嘘みたいだ。その感動はそのまま『カタバミ』に繋がり、ピアノのサウンドとともに温かな彩りが会場を包む。まるで1人1人の心に音楽という水をあげているようで、実際にはそこにないはずの花がライブハウス中に咲き誇った感覚に陥った。
続くMCでは、しょうやがKAZAANAの思い出を話し始め、竹川に「お前めっちゃ喋るやん」とツッコまれるシーンも。実は現在のUncurtainは、正規のベーシストである岡村が活動休止中。元々ギタリストだった竹川がベースに回っている体制で、しょうやはサポートなのだ。ただ、OSAKA MUSEがUncurtainにとって大切な場所であることをしっかり伝えてくれたしょうや。「残ってる体力全て枯らしてくれ!」と熱く告げた。
後半戦は再びバチバチにタイトなナンバー『勝ち犬って気分』からスタート。力輝は「音楽に負けはないと思うんですけど、勝ちはあると思うんですよ! よろしく!」と話す。ビジュアルもサウンドもスタイリッシュな4人だが、一歩ずつ泥臭くここまできたことが熱となって伝わり、会場からはシンガロングとクラップが鳴り響いた。
「もっとアゲていくぞ!」と煽り投下されたのは、このKAZAANAのために作り、今やバンドの集大成という位置付けとなった『リーストインピース』。エレクトリックな要素も強まった疾走感のあるサウンドに、これまで力輝が見せてきたクリアな歌声も狂ったような歌声も全て詰まった楽曲だ。3人のコーラスも効果的で、OSAKA MUSEが完全にUncurtainの凄みに気圧された。
最後のMCで力輝はこう語った。
「最初にKAZAANAツアーに誘われた時、ただ単に誘われた訳じゃなくて、『この(ツアー参加者の)コンピCDを伝説にしたい。そこにUncurtainがいてほしい』と言われて参加しました。やっていく内に、参加した16組でもっと頑張りたいし、でもこの16組の中で1番を獲りたいという気持ちがぐるぐる頭の中で回って。今日のファイナルに向けて、全力でライブやるだけじゃなく、いろんな新しいことを試して、それは全部このファイナルを成功させるためにやってきました。
今日来た皆にも誰にも言えない気持ちがあると思うけど、そういうの大事だと思うし、大事にできる人でありたいと思う。誰にも言えない気持ちや考えを持っている中で、俺にとってはこのステージでライブをするってことが心の支えになっていて。『リーストインピース』もやっていくごとに歌ってくれる人が増えて、すごい支えられているなと思っています。このツアーの後もUncurtainは続いていくので、応援のほどよろしくお願いします」。
そして「自分の中の勝負の曲で終わります」と、ラストに選んだのは『Nothing more』。英詞も多く交えたバラードで、エンドロールにピッタリな壮大な楽曲だ。メンバーがステージ上からフロア1人1人と力強く抱き合うような時間が流れた。ミラーボールを利用した照明も美しい。全てを出し切って歌い上げた力輝は、最後まで力強い目をしたまま「いつでも待ってます。Uncurtainでした」と告げ、丁寧かつ情感たっぷりに鳴らし続けたしょうや・竹川・泰心とともに、フロアから大歓声と拍手を浴びた。
アンコールでは、泰心がフロアとコミュニケーションを取った後、『新リーストインピース』を披露。最後まで「手上げられるか!」とフロアを煽り、互いに最後の渾身の力を振り絞る。〈あっちの世界で会いましょう〉という歌詞は、今日集まったオーディエンス全員に向けて、更なる高みへ行くことを約束するように聴こえた。それは決して反故にされることはない——私はそう確信している。
1年半ほど前に大阪のライブシーンに現れた時から、他のバンドにはないスタイリッシュなカッコよさが備わっていたUncurtain。同時に、「そのカッコよさをどのように輝かせるか」という問いとも戦っていたように感じるし、その自問は今も続いているだろう。
しかし今回のスリーマンでは、爆音とテクニックと個性で既に全国のライブシーンを揺るがしている2組と堂々と渡り合った。今では、「圧倒的なボーカルを擁する」とも「幅広くクオリティの高いメジャーレベルのバンドサウンド」とも胸を張って評すことができるバンドになっている。Uncurtainの常勝街道は今、始まったばかりだ。
【Setlist】
1. 不整命
2. 傷口
3. 天の扉
4. Finder
5. 呼縁
6. カタバミ
7. 勝ち犬って気分
8. リーストインピース
9. Nothing more
En. 新リーストインピース