やさしくきらめく春の歌 出会いと別れ、新しく始まる季節に

望月 柚花

望月 柚花

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春はそれまでの環境が変わり、出会いや別れ、終わりと始まりをより多く体験する季節だ。花が咲いて散り、なんとなく落ち着かない。この季節は誰だって春のワクワクや不安や切なさ、寂しさを抱えている。

でも、誰しもがそういったものを抱えているからといって、それを共有できるとは限らない。あなたのワクワクは他人にはわからないし、他人の不安はあなたにはわからない。

それでも音楽はそこにある。不安や寂しさに押しつぶされそうな時も、楽しくて踊りだしたくなる時も、音楽はそばにいる。


新しい場所で自分らしくいるための曲

『はじまりの季節』 ASIAN KUNG-FU GENERATION

人生は有限であることをアジカンらしく歌う。暗闇の先にはいつか必ず光が見えることを知っているような曲。新しくくる朝が不安で、新しい環境に身を置くのがこわい時、この曲を聴くとあたたかな気持ちになって安心する。

『素晴らしき今日の始まり』 GOOD ON THE REEL

生きているうちにあと何度春を迎えられるかを考えてしまう。自分の好きなものを全部大切にするのは難しい。でもそれでも何かを守りたいし、それでも誰かを愛してしまう。出会いや別れを繰り返してまた春が来る。それが生きていくということなのだと感じる一曲。

春の高揚感に包まれて

『Time』 ジャック・ガラット

音が天気雨の雨粒のようにきらめいているのが見える気がする曲。曲の最後に向かうにつれて壮大な広がりをみせ、ラスサビで一気に華やかになる構成は聴いていて気持ちがいい。

『ハルルソラ』 amazarashi

春風のようなイントロから始まる曲で、春の高揚感と少しのセンチメンタルさを疾走感あふれる爽やかさで表現している。大切なものを抱えてこれから未来へ走り出していく人へ、ぜひとも聴いてほしい一曲。

『春はもうすぐそこ』 Lucky Kilimanjaro

瑞々しく美しい春がくるという喜びを歌っている。刻むようなリズミカルなビートが格好よく、音使いが洗練されている。勇気づけられると同時に踊りたくなるような曲で、Lucky Kilimanjaroらしさがこれでもかというくらい溢れている。春を「変化の多い憂鬱な季節」と感じている人にぜひ聴いてほしい。春が少しだけ楽しみになると思う。

『春はトワに目覚める (Ver.1) ft.UA』 MONDO GROSSO

力強く美しい曲で無駄な音が一つもない。ビートと歌声のそれぞれの個性が両方とも浮かずにひきたてあっており、圧倒的な技術・表現力を感じる。世界的ダンサー・菅原小春が舞い踊るこの楽曲のMVは、張り詰めた緊張感と迫力のある映像になっている。ぜひ併せて見てほしい。

「出会えてよかった」と思える人と聴く

『アイラブユー』 THE NOVEMBERS

歌詞はシンプルなのに豊かで、愛という曖昧なものを感情を込めて耳まで届ける表現力はさすがTHE NOVEMBERSだと深く感動した。切実な歌声が心に沁みる。まくがかかったようにぼんやりと晴れた春の日に、電車で好きな人に会いにいく時に聴きたい曲だ。

『めでたい』 環ROY

シンプルなトラックと直接的ではなく深みのある歌詞。桜が散るのを眺めながら聴きたい。日本的な美意識があり洗練された趣を感じる。曲を聴いて浮かぶ情景が細部まで想像でき、小説のような曲の構成は聴いていて飽きない。

別れから始まる新しいこと

『ウララ』 ビッケブランカ

新しく春がくる喜びを軽快なメロディーで表現している。キャッチーさ満点の曲調で、相手の幸福な未来を願う明るく前向きな別れの歌。こんなに清々しい「さよなら」という言葉を聞くのは生まれて初めてだった。ビッケブランカ本人が軽やかに歌い踊るミュージカル風なMVも見ていて楽しい。

『桜が咲く前に』 きのこ帝国

花の咲く前の春の情景が浮かび、胸がつまるような切なさとあたたかさを感じる。生きていくことの楽しさと寂しさは表裏一体であり、だからこそ美しいと思う。この楽曲のMVは若手写真家・奥山由之が手がけており、切なく美しい曲にフィルムカメラのようなハイキーな色調の映像が非常に合っている。

『花が咲く道』 THE CHARM PARK

これから別々の道を歩く大切な人とまた会えるように、立ち止まらないように歩き続ける。そんな前向きなメッセージをTHE CHARM PARKが美しい歌声で表現する。彼の繊細で正確なギターテクニックも必聴ポイント。

『エイプリル』 mol-74

今はもういない大切な誰かを思い出すような曲。傷つけて傷つけられて、お互いに変わってしまったけれど、春になると思い出してしまう。感情の乗った歌詞を淡々とした声音で歌っていて、そのギャップがかえってエモーショナルさを増幅させている。

『Lily』 SALU

不安や悲しみで身動きが取れないとき、やわらかに優しく、そっと背中を押してくれるような曲。いろいろなことがある春という季節、思わず立ち止まりそうになるときに聴きたい。

(文・望月柚花)