【ライブレポート】ポンツクピーヤ 1st ワンマンライブ|ハイパーキューティーウルトラポップの正体を見た全17曲のステージ

遊津場

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6月1日(土)、大阪の心斎橋のLive House Pangeaにて、ポンツクピーヤの初のワンマンライブが開催された。

ポンツクピーヤは大石(Vo./Gt.)、吉元(Ba./Cho.)、中江(Dr./Cho.)の高専時代の同級生からなる、2022年結成の京都のスリーピースロックバンド。大石の日常に対して包み隠さず本音を綴った歌詞と、そことは時にアンバランスなくらいPOPでクセになるサウンドが、ライブでもSNS上でも話題となっている。

過去の自主企画もSOLD OUTを記録し、大型サーキットイベントでも今や常連となった1組である。そしてその勢いを象徴するかのように、今回の初ワンマンには関東や九州から駆けつけたリスナーもいて、チケットは完売となった。


ポンツクピーヤを熱狂的に迎えた、手拍子と大量の拳

本人達がセレクトした会場BGMが流れ、Pangeaの特徴的なステージの背景は暗幕で隠されてバンドのバックドロップが貼られ、普段から彼らのMVなどに携わる映像チームがスタンバイする——。彼らが何度もライブをしてきた心斎橋のライブハウスが、この日初めてポンツクピーヤとそれを愛する人達のためだけの空間になった。

満員のフロアの中、彼らが敬愛するというRADWIMPS(正式にいうとこの曲は味噌汁’sだが)の『にっぽんぽん』のSEが流れ、19時にライブが始まった。

手拍子に迎えられ、まずはドラムの中江が登場。位置に着くと早速ドラムを叩き、しばらくして大石と吉元が登場する。吉元はベースを響かせ、リズム隊とフロアの手拍子のセッションが巻き起こる中、大石もセッティングを完了し「ワンツー!」と叫んで1曲目『いつかきっとなんて』が始まった。

曲が始まってもその軽快なリズムは変わらず、ずっと続く手拍子。ただサビになると「待ってました!」と言わんばかりに大量の拳が上がる。曲調とは裏腹に、歌詞では〈もう一度やり直せたら〉と恋の未練を切なく歌う。このコントラストが彼ららしい。〈茜色〉と歌うところでは照明も茜色になるなど曲の世界観に合った照明も心地よかった。

そのままの勢いを維持しながら、2曲目『こんにちはスーパーマン』がスタート。よりアップテンポの楽曲ということもあり、大石も歌いながら明らかにテンションが上がっているのが、伸ばす語尾から感じられる。フロアの手はさらに上がり、照明の赤緑白の煌めきもさらに増す。曲が終わると大きな歓声が湧いた。

再びベースとドラムと手拍子のセッションが生まれる中、大石が「我々が京都から来ましたポンツクピーヤと申します」と挨拶。

「もうめちゃくちゃ時間がありますんで、ものすごい数の曲を最後までやり切りたいと思いますので、どうか最後までよろしくお願いします」と話し、「1、2、3、4!」と叫んで始まったのは『crap your crazy!!』。これまでとはまた違ったノリの良いリズムに、各パートの演奏ソロパートもあり、会場も心から体を揺らしているのが分かった。

4曲目は、「僕たちとあなたの家族に愛を込めて」と言って始まった『FAMILY』。まだ音源化もされていない楽曲だが、アップテンポなリズムの中に、しっとりとしたムードに変わる転調、かと思ったら大石がギターを強く響かせるなど見どころ満点。〈屋根の下〉という家族を思わせるような歌詞が随所にあり、サビでは〈Hold me tight ラララ 愛しておくれよ ラララ〉というフレーズが非常にキャッチー。今後のライブでも欠かせないアンセムだと感じた。

5曲目は『忘れんぼ』。ここで本日初のバラードを披露し、しっかりとフロアの後ろまで耳を傾けさせる。失恋の感傷を増幅するような青白い照明が、曲の世界により一層没入させてくれた。

そこから続く『悪いようにはせえへんから』は、歌詞通り18時の商店街を散歩しているようなビート。関西弁が出てくる歌詞も相まってか、大失恋をしようが、どうせ変わらず過ごしていかないといけない日常を表しているようで、生活のリアリティを大いに感じることができる2曲の流れだった。

感動、喜び、悲しさ、焦燥、全部の感情を歌う

「SOLD OUTとは聞いたんですが、当日まで本当にお客さんが来てくれるか不安だった。けど、こんなにたくさん来てくれて嬉しいです。ありがとうございます」と大石は感謝した。

「ワンマンやりたい!とメンバーにも言わず今日(のライブを)決めたけど、僕ら配信10曲くらいしかない。なので半分くらいは知らない曲だと思うんですけど、それでも全力でお客さんの感動だったり、喜びだったり、悲しさだったり、焦燥だったり、全部の感情を歌おうと思うのでよろしくお願いします」と話し、会場はまた大きい拍手に包まれる。

そして大石がゆっくりとギターを鳴らし、伸びやかに音のボルテージを上げてから始まったのは『喫茶店に蔓延る』の高速ビート! ノンストップで畳み掛けるサウンドに、若い世代に手を伸ばす怪しいビジネス勧誘を扱った歌詞のユニークさも注目された曲だが、先ほどのMCもあって〈歌を歌おう 僕は君を知りたいのさ〉という歌詞がより力強く響く。

そこからベースからの繋ぎが印象的な『こんばんは暗闇』へ。より刺激的なワードが並ぶ歌詞に合わせて、大石の胸の内のテンションもさらに爆発的に解放されていく。その次に披露されたのはバラード『朝が苦手なだけなのに』。もう大人なのに社会で普通に生きていけない苦しみを歌った曲だが、前の曲との感情の起伏がすごい。さっき爆発してしまったことを反省するかのようだ。ただ、日々社会に揉まれている我らにはこの感情の激しい起伏具合、共感しかないのではないか。

続く『猫より弱い』も、そんな自らの日常への虚しさを感じるナンバー。猫を見ながら、思わず強い酒をあおってしまう曲中の登場人物。でも、そのやり切れないほど繰り返す日々から少しは立ち直ろうとしたのか、次の『20歳』では<そういえばお前とまだ酒飲んでなかったな>という歌詞が印象に残った。そしてそこから、〈なぁ友よ お前が死んでしまう夢を見たよ〉という歌詞から始まる最新曲『死にたい夢』へと繋がる。

虚無状態で一人で晩酌していた人物が、なんとか友人を誘って居酒屋に行く——ふとそんなストーリーが浮かんだ。自分から飲みに誘うのがなんてことない人もいるかもしれないが、それがとてもハードルの高いことだと感じる自己肯定感低め人間からしたら、主人公がここまで行動に移せたストーリーは感動的だ(筆者の私自身もそうなので…)。

『死にたい夢』単曲でも心の中の消えない情熱が焚き付けられる1曲だが、ワンマンという特別な環境の中で他の曲たちと繋がれて演奏されたこの曲には、さらに焚き付けられるものがある。大石のボーカル、吉元と中江のコーラスと演奏、いずれも中盤戦に入っても最高の熱量を持って届けられ、満員のフロアがそれを受け取る景色はやはり美しかった。

結局、部屋に帰ったら一人やなって毎回思う

その後のMCで、大石はフロアに「楽しんでいただけてますか?」と聞く。もちろん歓声があがったが、大石はこう続けた。

「僕は常々思うんですよ。今日みたいな楽しくて、ステージの上からこれだけ僕らの音楽が好きなお客さんが集まってくれた日があったら、もしかしたら僕は孤独じゃないんじゃないか。味方だったり、仲間だったり、友達だったり、彼女だったりが付いているんじゃないかって思う日があるんですよ。今日も絶対そういう日だと思うんですけど、明日になったら残ってるのは一人部屋で耳鳴りだけなんですよ。耳鳴りが鳴ってる部屋で一人でボーッと『楽しかったなぁ』と言ってるだけ。結局、部屋に帰ったら一人やなって毎回思うんですよ。どれだけ仲良い人や信頼できる人がいても、結局いつか僕らは孤独のままで死んでいくと思う日が常々あるんです。そういう曲を作りました」

そうして披露されたのは『ロンリー』。ユニークなイントロやシンガロングができる楽しい部分もあるが、〈そして僕はまた一人きりだよ〉という歌詞にハッともさせられる。

続いて「まだ曲名もない曲ですが覚えて帰ってください」と新曲を披露。優しいイントロから、疾走感のあるメロディと持ち味である本音を畳み掛けるリリックが始まる。“どうしようもなく“最高に解放的なサビに加え、こちらも「ラララ」と合唱できるパートがあり、彼らの進化を感じるには充分の最新のキラーチューンだった。

「時間経つの早いね。練習では長いな長いなと思ってたけど、もうあと2曲なんですよ」と大石が話すと、会場からも驚きと落胆の声。ただ「本当はアルバム出してからワンマンが順当なんですけどやりたい気持ちが先行しちゃって……。順序が逆になったんですけど今度アルバム出します」と発表すると大きな拍手が起こる。

そして、大石が自分にしか書けない恋愛ソングとして作成したという『愛してるって言って』を披露。最終盤まで枯れない歌声、崩れない3人のアンサンブルで、ここに来て今日一番純度の高いラブソングが贈られた。

最後に大石は、「僕らまだ結成して2年くらいなんですよ。去年冗談でPangeaでワンマンができたらいいなと言ってたんですけど、これだけ早くこの場でワンマンライブできるようになったのは、今からやる曲と出会ってくれた皆様のおかげだと思っています。最後に僕らから最大の愛を込めて『19歳』という曲をやって終わりにしたいと思います」と告げ、本編ラスト曲『19歳』を投下。さすがの一体感が会場に生まれる。

ずっと歌い続けてきた歌詞も、今日のワンマンライブの締めの1曲だからこそいろんな感情をまとめ上げていて、さらなる輝きを持って放たれた。輝きがフロア全体に満ちる中、本編はフィニッシュとなった。

ポンツクピーヤから受け取った「最高の劇薬」

一度ステージから捌けた3人は、直後に巻き起こったアンコールに誘われて再び登場。

大石は「僕らはバンドとかアーティストやらしてもらってますけど、音楽やってるだけで普通に就職してる一般人なんですよ。だから今日大勢の人が集まってますけど、2年前は本当にこんなことなかった。ノルマでヒーヒー言ってたし、お客さん一人とか全然あった。だから今日の景色が本当に信じられない。日中働きながら、土曜日にこういう頑張ろうという目的があることが本当に生きる糧になっています。本当にありがとうございます」と感謝を伝える。

続けて「僕ら『19歳』って曲を聴いてもらえるようになって、そのおかげで変に媚びたりせずに、自分達の信念を曲げなくてもいいと思えるようになりました。これからも自分達の絶望だったり、悲しみだったり、皆さんの焦燥だったり、そういうのを僕らが曲にしていきたいと思います。この信念は曲げないで、それでも変化し続けて、ロックンロールをやっていきたいと思います」と伝え、感謝と期待の歓声の中『シット・バイアス・ミュージック』を演奏した。

最後まで3人は楽曲に真摯に、そして目の前のお客さんのために、一音一音に強い思いを乗せて鳴らす。その姿は最高にカッコよかった。演奏を終えると深々と礼をし、あっという間の1時間半のライブが終了した。

1時間半のワンマンライブでポンツクピーヤは、特有のひねくれ尖った歌詞の弓矢を過去最高に放ちまくったのは間違いない。そこには毒もちゃんと塗ってある。なのに何故こんなに温かい気持ちになれているのだろう。

この毒矢は、無闇に人を傷付けるものではなくて、誰の心の中にも存在する言葉にならないフラストレーションに向けて刺さってくる。マイナス×マイナス=プラスではないけれども、いわば毒をもって毒を制す。生きているだけで心に棲み着いてくる毒には、ロックンロールという力をまとった毒を刺すのが、最も効果覿面ということを証明してくれたのではないだろうか。

ただ、この調合というか塩梅は、恐らく並大抵の感覚じゃない。センスだけでなく何度も実践(ライヴや楽曲制作)をしたから、そしてリスナーと近い感覚があるから、これほどPOPなサウンドの中に毒を入れることができている。その過程で生まれた、新しく即効性がすごい毒。そう、この毒の名前こそ「ハイパーキューティーウルトラポップ」。この日満員のPangeaにいた人達が受け取った、最高の劇薬である。

この中毒性は合法である。孤独から生まれる悲しみは消えることはないけれど、少しでも減らすために、彼らが生み出す音楽をもっともっと広めていきたいと心から思った。

(取材/文・遊津場)
(撮影・美海 @mm_ii_526

【Setlist】
1. いつかきっとなんて
2. こんにちはスーパーマン
3. crap your crazy!!
4. FAMILY
5. 忘れんぼ
6. 悪いようにはせえへんから
7. 喫茶店に蔓延る
8. こんばんは暗闇
9. 朝が苦手なだけなのに
10. 猫より弱い
11. 20歳
12. 死にたい夢
13. ロンリー!
14. 新曲
15. 愛してるって言って
16. 19歳
En. シット・バイアス・ミュージック