森見登美彦著『夜は短し歩けよ乙女』という小説を読んだことはあるだろうか。京都に住む大学生の「先輩」と、彼が思いを寄せる「黒髪の乙女」を取り巻く摩訶不思議な物語を描いた1冊だ。私はこの小説の中に、とても思い入れの深い一節がある。
こうして一冊の本を引き上げると、古本市がまるで大きな城のように宙に浮かぶだろうと。本はみんなつながっている。
森見登美彦著 『夜は短し歩けよ乙女』より
この一節を述べた少年は、その後の台詞で文芸界に残る数多の名作や著名人を、点と点を繋ぐようにどんどん並べていった。その流れを読んだ私はまっことその通りだと感嘆すると同時に、本というものの面白さを改めて感じ、久しぶりに読書にでも没頭しようか、などと考えたものである。
またこの台詞を読んだ時、同時に私の頭の中に浮かんできたのは「音楽もこれと同じだよなあ」という思いだった。私自身、この点と点を繋いでいく作業からたくさんの素晴らしい音楽やアーティストに出会ったことが、音楽の楽しさを実感した原体験となっている。
そこで今回は、この『夜は短し歩けよ乙女』的方法論を用いて、皆さんを広大な音楽のブルーオーシャンへとお連れしたいと思う。気になるアーティストや初めて聞いた、という音楽があれば、ぜひ手に取って頂ければ幸いである。
まず入口としては、つい先日のサブスクリプション配信解禁も話題となった国民的バンドRADWIMPS。彼らの代表曲『前前前世』は、実は2人のドラマーによって演奏されている曲となっている。そのドラムを演奏しているのが、森瑞希と刃田綴色だ。
後者の刃田綴色は、今年8年ぶりに復活を遂げた東京事変のメンバーでもある。ボーカル椎名林檎、名プロデューサーでもある亀田誠治、サポートミュージシャンとしても人気の伊澤一葉、そして浮雲。この5人が再集結する日を、どれだけのファンが心待ちにしていたことだろう。
また、メンバーの浮雲は自らがボーカルを務めるバンドペトロールズとしても活躍している。彼らが2017年に発表したトリビュート・アルバム『WHERE,WHO,WHAT IS PETROLZ?』。
この作品にはYogee New Wavesやnever young beachなど現代カルチャーの最前線で活躍するバンドから、KID FRESINOなどのジャンルの垣根を超えた名アーティスト達も集結している。
またその中には、間もなくデビュー30周年を迎える大御所ORIGINAL LOVEの名前も。彼と言えば某有名ウィスキーのCM曲や、東京スカパラダイスオーケストラボーカルコラボの奔りとなった曲『めくれたオレンジ』などが有名だろう。そんな彼の至高の名曲と言えば、やはり『接吻』を挙げる人も多いはずだ。
これまでこの楽曲をカバーしたミュージシャンはなんと40組以上。その為、原曲は知らなくとも聴いたことがある!という方もきっと多いはず。そんな『接吻』をカバーしているミュージシャンには、これまたマルチな活躍を続けているハナレグミもいる。
彼も先ほど挙げた、スカパラコラボに参加経験のあるミュージシャンの1人だ。また以前はSUPER BUTTER DOGというバンドでも活動しており、そのメンバーの中に池田貴史もといレキシがいたことも、今はもう知らない方もきっと多いのだろう。
レキシと言えば、楽曲で招いたゲストに独特のレキシネームと呼ばれるユニークな名前を付けることでも知られている。三浦大知も、そんな彼から「ビッグ門左衛門」というレキシネームを与えられたシンガーの1人である。
エンターテイナーとして類稀なる才能を発揮する彼が、幼少の頃所属していたユニットFolder。そのFolderには実はあの満島ひかりも所属している。
現在は女優として活動している彼女だが、2017年にリリースされた大沢伸一のソロユニットMONDO GROSSOの約14年ぶりの新曲『ラビリンス』で、その唯一無二の歌声を披露したことでも話題となった。
またこの『ラビリンス』が収録されているアルバム『何度でも新しく生まれる』には、彼女以外にも様々な女性シンガーが招集されている。UAや乃木坂46の齋藤飛鳥、bird、そしてやくしまるえつこもそのボーカリストの内の1人となっている。
相対性理論を始め、近年ではプロジェクトや即興演奏など様々な音楽シーンで幅広い活躍を見せるやくしまるえつこ。彼女がNHK番組『デザインあ』で歌っていた『やじるしソング』は、ドラマ『サ道』の主題歌も話題になったCorneliusプロデュースの1曲だ。
アーティスト活動はもちろんのこと、先述した番組音楽制作やプロデュース業も盛んなCornelius。岡村靖幸や木村拓哉、布袋寅泰、元ゆらゆら帝国の坂本慎太郎ソロ名義のプロデュースなども行っている。
坂本慎太郎が敬愛している音楽家として、よく挙げているのがジミ・ヘンドリックスとピーター・アイヴァースだ。彼が初の声優主演作を務めた映画『音楽』の主題歌、ドレスコーズの『ピーター・アイヴァース』はきっとそこからタイトルを付けたのではないだろうか。
そんなドレスコーズは現在、志磨遼平のソロプロジェクトとして多数のサポートメンバーを迎えて活動しているが、中でもベースの有島コレスケは非常に参加率が高い。彼自身もtoldやスズメーズなど、多数のバンドやユニットで活躍しているプレイヤーとなっている。
…とこのような形で、今回は様々なアーティストや楽曲を点と点を繋ぐように紹介してみた。
お分かり頂ける通り、話の中で意図的に繋がなかったアーティストも多々ある。東京スカパラダイスオーケストラなどはその際たる例で、繋いでいくと良い意味で本当にキリがなくなってしまうのだ。彼らから今回挙げなかった別のアーティストへと繋いでいくと、また新たな音楽との出会いももちろんたくさん待ち受けている、という訳である。
今聴いている音楽からさらに手を広げて様々な音楽を聴いてみたい、新しいアーティストを発見したい。そんな思いを抱えている方は、ぜひ好きなアーティストがフィーチャリングに迎えているミュージシャンや、彼らがリスペクトしている音楽などを手始めに聴いてみるといいだろう。それだけで、あなたの知る音楽の世界がぐんと広がるはずだ。
音楽というカルチャーは、あなたが思っている以上に広大な海である。楽しみ方はもちろん人それぞれ。しかし様々な音楽を知ることで、アーティスト単体だけではなく、「音楽」というカルチャーそのものがもっと好きになれる。それだけは、間違いなく言えることなのではないだろうか。
(文・曽我美なつめ)