【ライブレポート】HUGENリリースパーティー『モンジュ Special Three Man Show』xiangyu / Tenniscoats / HUGEN

望月 柚花

望月 柚花

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HUGEN(フゲン)は2024年1月に結成・活動開始した音楽プロジェクトだ。トラックメーカーのTPSOUND(Vo/PC)が中心となり、ミ兵chi(Per)、久津間俊平(Ba)、谷崎健太(Sax)がプロジェクトメンバーとして参加している。

日が長くなってきた2024年5月最後の日、下北沢SPREADにはHUGENのリリースパーティー『モンジュ Special Three Man Show』のために多くの人が集まっていた。今回のリリースパーティーは主催のHUGEN、そしてゲストアーティストとしてxiangyuとTenniscoatsを招いたスリーマンライブとなっている。

会場となる下北沢SPREADは、演奏スペースとフロアの境目がないフラットな空間と、コンクリート打ちっぱなしのスタイリッシュさが印象的な場所だ。開演の10分前から徐々にフロアが埋まりはじめ、場の空気に期待と高揚感が満ちていくのを感じていた。


xiangyu

踊らずにはいられない

トップバッターはxiangyu(シャンユー)。2018年から活動を開始した女性アーティストで、個性的なのにどこか共感を覚える独特のリリックと、パワフルなパフォーマンスが目を引く存在だ。

2019年5月にサウンドプロデューサー・ケンモチヒデフミを迎えた1st アルバム『はじめての○○図鑑』をリリースし、2020年6月には1st EP『きき』、2023年11月に2nd EP『OTO-SHIMONO』を発表。さらにその間にも多くのシングル楽曲を発表するなど、精力的な活動を行っている。

また、音楽活動以外だけではなく、映画出演や執筆活動、アートやファッション活動のほか、ボランティアなどの社会貢献も行うなど、しなやかな強さと意志を持ち、ミュージシャンの枠にとらわれず幅広く活動しているのも注目すべきポイントだ。

この日のxiangyuのライブは、通常とは異なり、Gimgigam(Gt)と宮坂遼太郎(Per)の三人編成でのパフォーマンスとなる。

最初に披露されたのは楽曲『プーパッポンカリー』で、あっという間に会場全体が盛り上がっていくのに驚いた。

圧倒されたのは、宮坂遼太郎(Per)の生み出すひとつひとつの音の重さと振動、内側で鳴っているかのように響く力強さだ。パーカッションの生み出す強く確かな地盤の上にxiangyuのパワフルなボーカルが乗り、Gimgigamのギターが寄り添う。

3つの点が絶妙な塩梅で繋がり、研ぎ澄まされた美しさと、今ここで音楽が生きているという感動をもたらす、そんなパフォーマンスをみせてくれた。

続く『Y△M△』でも3人編成と思えない音の力と分厚さを感じ、思わず身体が動く。この演奏と歌唱を聴いて「踊るな」と言うほうが無理である。観客と演者の境界線が曖昧になり、音楽を通して遊んでいるように会場の一体感が上がっていく。

キャッチーでキュートな『ラスイチのピザ』では電子的な音とフィジカルなビートが混ざり合う気持ちよさを、『秒でピック白』では、最初からフルパワーで歌うxiangyuの尽きることのない情熱を感じた。会場のコンクリートの壁に映された波紋のような映像がパフォーマンスを引き立てていく。

MCでxiangyuは「HUGENのTPSOUNDは昔からの仲で、親戚のお兄ちゃんみたいな安心感があります」と語る。さらにフロア後方に向かって「後ろのほう気を抜かないで! 私そっち全然行くよ?」と彼女が笑いかけると、それに応えるようにいくつもの手のひらが挙げられた。

音を楽しむという純粋な喜び

MC後に披露した『ZARIGANI』は、観客を巻き込んでの愉快なひとときとなった。xiangyuの呼びかけでザリガニの手を真似たピースサインをかかげたら、歌と演奏に合わせて簡単な振りをする。ステージもフロアも笑顔と熱気で満ちあふれていた。日常生活ではあまり感じない、音に合わせて体を動かすことの楽しさ。そこに宿る根源的な喜びが、じわりと胸に広がっていく。

『迷子のR』では、予告通りxiangyuが歌いながらフロア後方まで飛び出していく。演者と観客の区別なく、全員で音を楽しんでいる一体感が心地良い。

『道端にネギ』は、音源で聴いた時にも歌詞の妙にグッときた1曲だ。等身大の視点で書かれている歌詞を、彼女が歌うことで独自のリズムがついて、聴く人へ肉迫する強さと芯の太さが生まれる。

さらに『ニッチな王道』『MANHOLE』を続けて披露。この日のxiangyuのパフォーマンスは三人編成で、それぞれが調和しているのに、それぞれが個々のはっきりとした輪郭をもって存在しているのが印象的だった。歌唱をつとめるxiangyu、ギターGimgigam、パーカッションの宮坂遼太郎。この時間の楽しさを共有しながら、一瞬たりとも気を抜けない真剣勝負で歌い、演奏している。

フルパワーで駆け抜けた12曲

MCを挟んで、6/26リリースの新曲『ずっといるトマト』を披露。さらに『入れ歯』『かたっぽshoes』で、xiangyuは驚くほどパワフルにこの夜を駆け抜けた。

全12曲のパフォーマンスを終え、客席からの拍手と感謝の声に「こっちがありがと〜!」とチャーミングに笑う。三人編成と思えない豊かなパフォーマンスで会場を盛り上げ、その場の人々をすべて巻き込んで一緒に音楽を楽しむ、素晴らしいひとときを作り上げていた。

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Tenniscoats

きらめく瞳と静かな空気

Tenniscoats(テニスコーツ)は、1996年ごろに結成された、植野隆司(Gt/etc)とさや(Vo/etc)による音楽ユニット。1999年の1stミニアルバム『テニスコーツのテーマ』のリリース以降、ツアーやライブを続け、自身たちだけの作品発表はもちろん、世界中のバンドやミュージシャンとの様々な共作も発表している。

演奏前に機材を整える短い間、ピアニカを手に裸足で椅子に上がり会場を見渡すさや(Vo/etc)の眼差しを見た時、思わずはっとした。Tenniscoatsは長いキャリアを持つユニットだ。ツアーやライブの経験回数も多く、それだけライブ慣れしているはずなのに、その瞳にはこれから始まる時間への新鮮なワクワク感が星のようにきらめいていた。

やわらかな歌声とエッジの効いたギター、ピアニカの音色で始まったのは『しろいもの』。先程までフロアに充満していた熱がおさまっていくのを感じる。静かにそっと、それでいて瞬く間に、別の世界に変わっていく。

霧が立ちこめるしっとりした森の中のような風景が見えた気がして、思わず足元を確認する。会場のコンクリートの床面が、一瞬だけ緑の苔むした地面に見えた気がした。

この日のTenniscoatsは新曲をメインにパフォーマンスを披露した。続く『Poizong(仮)』も新曲で、二人で演奏していると思えないほどの豊かな音色で、会場にいる人々を惹きつける。スモークに包まれながらスポットライトで照らされるパフォーマンス中の二人の姿は、どこか現実離れした美しさをかもし出していた。

たった今この場所で鳴っている音

『Cacoy Song』では、ゲストアーティストとして山田碧(Vo/Pianica)、髙島連(Sax)が参加。バランスを崩さず寄り添い、それでいて時に全員の個としての輪郭がはっきりするのが印象に残る。

その場で生まれる音楽、即興の美に感動しながらも、彼らが音で遊んでいるように見えて、観客側も思わず顔がほころんでしまう。

いつだってただそこにある

新曲『Bali Arp(仮)』を経て、『Saya Afro(仮)』ではさらなるゲストアーティストとして沼田佳命子(Cl)が演奏に参加。空気と音が和やかに厚みを増していく。そこから、さやと植野が二人でマイクを持ち、先日MVが公開された『World NeW』へと続いた。

調和しているところと、独立しているところ。いろんな面を持ちながら、ただそこにあるだけで意味を持つ。そういう音楽が奏でられているということに、ぐっと込み上げるものがあった。

Tenniscoatsが最後に披露したのは『光輪』で、懐かしさを感じるあたたかい雰囲気で会場を包み込む。彼らの音楽には、しなやかな強さを持ちながら、まとわりつくことなくさらりと手を握っていてくれるような印象を受ける。

長いキャリアで培った経験、確かな演奏・歌唱技術、豊かなライブパフォーマンス。もちろんそれらも素晴らしい光を放っているが、「いつでもそばにいるよ」と言ってくれているような音を生み出し続けているのも、Tenniscoatsの大きな魅力のひとつなのだと感じた。

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HUGEN

迷って歩いた道の先で

2024年の1月から活動を開始しているHUGEN(フゲン)。その経緯についてTPSOUND(Vo/PC)は「コロナ禍が起こって広まって、そこから自分の活動について様々な迷いが出始めたんです」と話し始めた。トラックメーカーとして長く活動していた彼が、パンデミック中に自分と向き合い、迷い、考えた上で、「やりたい」と感じたのがボーカルだったという。

2022年ごろにソロボーカルプロジェクトとして「北野哲平」名義で活動を始め、音源もリリース。しっかりと足場が固まっていく感触を得ていたが、一人で行ったライブだけが「どうもしっくりこなかった」。

バンドセットのメンバーを探し始め、最初にミ兵chi(Per)が、続いて久津間俊平(Ba)、谷崎健太(Sax)と個性あるプロジェクトメンバーが揃っていくと、エモーショナルで異国感のあるトラディショナルな現在のHUGENの輪郭が見えてきたという。

HUGENが披露した最初の楽曲は『PAN』で、観客と演者、音楽と言葉、隣り合う人と人、すべての境界線がにじんでいくのを感じた。違和感も不自然さもなく、あたたかな水の中でゆったりと漂っているような心地よさがある。

続いての『SLOW』では先ほどまでの穏やかさが力強さに変わる。相反する要素があって、いろんな表情がなめらかに変化して繋がっていく。そこで生まれる音のひとつひとつに、人間らしさというか、生きているものが持つ特有の切実さが宿っていた。

あなたを愛しているということ

TPSOUNDはMCで、リリースパーティーに集まったすべての人々への感謝の意と、自身の子供への純粋な愛を語る。そして「マヤ、愛しています」という言葉とともに始まったのが『MAYA』だった。

手を握り、まだおぼつかない小さな歩幅に合わせて一緒に歩いていく。その純粋な幸福。静かで穏やかな、祈りのような深い愛情。「あなたを愛している」というシンプルな想いが、こんなにも力強く胸に響く。

子供の踊り方からインスピレーションを受けたという楽曲『Dancing Children』では、自由にのびのびと何かを表現することの喜びを歌う。

続く『桜源郷』ではリアルタイムで重ねられていく音の分厚さにぐっと引き込まれた。どこか異国情緒を感じる音づかいが空間に満ちていって、あっという間にHUGENの独特な世界観に染まっていく。

生きているからここで歌う

アンコールはリズミカルなテンポとリリックが魅力の『パッピドゥ』。全員が楽しそうに手を挙げ、リズムに乗る。音楽の本来の意味である「音を楽しむ」ということを改めて知った楽しいひとときだった。

終演後これからの展望について尋ねると、TPSOUNDは「自分の始めたプロジェクトではあるのですが、関わってくれるすべての人に、HUGENのプロジェクトに関わって良かったと思える形にしたい」「国境問わず沢山の人とHUGENの音楽を共有できたら嬉しい」と穏やかに笑って答えてくれた。

しなやかさとやさしさを感じるその笑顔は、この日聴いたすべての音楽とともにしっかりと記憶に残る、とても印象深いものだった。

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(取材/文・望月柚花)
(撮影・会田かなで)