大阪のピアノポップバンド・声にならないよが東名阪ワンマンツアー『忘れたくないこの感情を』を開催した。
2020年より活動を開始し、若宮めめ(Vo)の透明感のある歌声とHiRo(Pf)の繊細なピアノを中心としたサウンドを軸に、精力的なライブ活動や楽曲配信を展開する彼ら。ここ最近ではSNSでのバズやアニメ主題歌などでも認知度を高めており、待望のワンマンツアー開催となった。
今回は、9月23日(月)に地元大阪のMusic Club JANUSで開催されたワンマンライブの様子をレポートする。
「誰も置いていかない」の言葉通り、フロアを牽引する頼もしいピアノロック
開場するとすぐに多くのファンが前方に集まり、会場は賑やかな雰囲気に。しかし会場がスッと暗闇に包まれ、ピアノのSEが流れると、全員がその音に静かに耳を傾ける。
そのSEは徐々に映画のようなスペクタクルなサウンドに変わり、白の衣装に統一しためめとHiRo、サポートメンバーのおーしゃん(Gt)、たかだしおり(Ba)、Tetsuya(Dr)が登場し拍手が起こる。
1曲目は『君なんかいらない』。歌い出しからめめの歌声とHiRoのピアノに耳を奪われる。Tetsuyaの1音1音丁寧に刻むドラムを皮切りに、たかだしおりのベースとコーラス、おーしゃんの優しいギターの音色が追加されていき、会場はしっとりとした空気に染められた。
その空気に温もりを与えるようなギターが鳴り始め、めめの「声にならないよです!」という元気な挨拶と共に2曲目『たまには』がスタート。ハイテンションなサウンドに乗り、ハンドマイクに持ち替えためめも全身でリズムを取る。そこに呼応してサビで一斉に手が上がったフロアに、「いいね!」と答えるめめ。
一気に華やいだ会場をさらに彩るアップテンポな『恋する』では、速いリズムにもかかわらずフロア含め全員息ぴったり。ステージ上もフロアも笑顔でいっぱいになった。
そのまま最初のMCへ。ツアーで訪れた名古屋での思い出、東京での(やらかした)思い出を話しためめは、「JANUSも大好きな箱だし、初めての人も誰も置いていかないライブをするので、大船に乗ったつもりで付いてきてください!」と力強く伝えた。
「あなたが前を向けますように」。そんな言葉から始まったのは『やんわりポジティブ』。めめは手拍子が起こるフロアの1人1人と目を合わせながら歌う。アニメ「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」OPテーマ『はじめては全部君がいい』では、甘酸っぱい歌詞も相まって、リズムに合わせて手を伸ばすフロア中が止まらないドキドキに溢れているように感じた。
そこから一転、シリアスなサウンドと紫の照明の中で始まったのは『sumire』。おーしゃんの鳴り響くギターと、冬を乗り越え春に咲く花の如し生命力のあるHiRoのピアノが美しい。季節外れの花吹雪が巻き起こり、この時間だけは春の匂いがした。続いて『白い花』へ。小さく揺れながら聴く1人1人は風に揺れる花だった。
今日の“声なら”はここでフロアを休ませない。ピアノロックチューン『とめどない』を投下し、フロアもすぐさま力強いクラップを巻き起こしてさらなる熱量を作り上げる。その熱は、特別なSEを挟んで始まった『いつかの話』でも継続。力強く拳を握りしめながら“君”に向けて歌う、めめの姿の嘘のなさが心を打つ。もう既にクライマックスを思わせるような前半だった。
5人の個性が遺憾なく輝き、フロアはより自由な雰囲気に
「やっぱり大阪最高です」「帰ってきたー」。そんなめめの言葉に、フロアからは自然と「おかえり」の声。その後、おーしゃんが髪を黒く染めたことから各々の髪色トークへ。たかだしおりのピンク髪に対するフロアの反応が圧倒的に良く、めめとおーしゃんが突っ込むという和やかな場面も。
「全国どこに行ってもファンが待っているようになってきていることが嬉しい。本当にありがとうございます」
「声ならのファンはライブに行ったことない人も多いけど、行ってみたらライブ楽しいな、人柄も含め音源とは違う感じがいいな、と思ってもらえるよう頑張ってる次第です。その中で今回のツアーに向けて、どうしても歌いたい新曲があります!」
そんな前置きから、初のウェディングソング『愛ふれる』へ。”明るい曲増やそうキャンペーン”の今だからこそ出せるというHAPPYな曲。真実の愛を誓い合った2人でなければ分からない幸せの情景を描いた歌詞と、自然と起こる〈ラララ〉の合唱が約束通りの多幸感を生む。
続くバラード『Lycoris』では、たかだしおりのボーカルパートもしっかり溶け合い、甘さとほろ苦さが会場を包む。そこから、Tetsuyaのラスサビ前の力強いドラムが印象的なアップテンポ曲『染愛』という流れには、バンドの楽曲の幅広さを改めて感じた。
ここで、”SUPER YOSHIDA TIME”と呼ばれるHiRoのピアノソロパートへ。大切な誰かとあらゆる思い出を積み重ねてきた——そんな記憶を鮮明に思い起こさせるのには十分な、濃密な2分間が流れる。
そして「きっと僕らに出会うきっかけになった人が多い曲を歌います」という一言を挟み、『生きる理由になったから』へ。責任感がより一層こめられためめの歌声を、4人のうち誰1人欠けても成立しない強固なバンドサウンドが受け止めた。そこから放出された強大な曲の力は、生演奏でなければ生まれない。
その圧倒されたような雰囲気に暖かな空気を送り込んだ『死にたい夜のBGM』では、フロア1人1人が自分らしくリズムを取りながらハンズアップしており、優しい解放感に溢れていた。
「声にならないよが大きくなっていく姿を見ていてほしい」
ここで、めめの最後のMCへ。
「3年前、結成1周年の時にもこの場所でワンマンライブをしました。その時はこの広い場所に15人しか集まりませんでした。緊急事態宣言中とはいえ、そんなこと関係なくものすごく悔しくて、忘れられなくて。JANUSの担当者は『よく集めたよ』と優しく言ってくれたけど、そうは思えない自分もいたし、今日はその時のリベンジの気持ちでした。こんなに沢山の皆が来てくれたこと、3年前の自分に『やっててよかったよ』って教えたい。
でも今日はSOLD OUTしませんでした。やっぱ悔しい。カッコ悪い。だから半分嬉しいし、半分悔しい。やっぱり僕の中では悔しさもまだまだあるけど、あなたが今日選んでここに来てくれたのも事実。あれから3年間、声にならないよは絶対良いバンドになったと思ってる。それだけは胸張って言えます。
だからこの悔しさは、またリベンジさせてください。これからの僕達が頑張る理由にさせてください。これから先どうなるか分からないけど、僕なりに声にならないよを大きくしたいと思っている。その姿をあなたに見ててほしいと思っている。だからどうかこれから先も付いてきてください。今日は本当にありがとうございました。声にならないよでした」
そう感謝と決意を話すと、会場から大きな拍手が送られた。
「あなたがそのままでいられますように」という言葉から『この世が生きづらいあなたへ』を演奏。優しく語りかけるように歌うこの曲に合わせて、フロアも一緒に口ずさむ姿からは、声ならの歌がリスナーにとってのお守りのような存在になっていることが分かる。続く疾走感のあるナンバー『もしも心が泣くのなら』でも、そのフロアとの一体感は変わらない。1曲目からリスナーとの信頼関係は強固になる一方だ。
そしてラストは『インターネットの海を越えて』。サビではフロアからも終始大きな歌声が上がり、メンバーの躍動感は今日一のものに。最高に幸せでPOPな世界を作り上げて、本編は終了した。
アンコールを求めるフロアでは、クラップと共に『インターネットの海を越えて』のサビをラララのリズムで歌う輪が広がる。それに応えて5人は再登場し『特別。』を披露。ポエトリーのパートもある楽曲を、1文字1文字を丁寧に伝えるように届ける5人に、また温かな拍手が送られる。
2025年1月に8曲入りミニアルバムが発売されるという初解禁の情報を伝えたのち、ラストナンバーに選ばれたのは彼らの始動の1曲『soundless』。最後までフロア1人1人の“君”へ歌を届け、ポップソングがライブで生む幸せを最大限まで大爆発させて、ライブは終了した。
何度もクライマックスかと思わせるような感動的なシーンが繰り広げられたワンマンライブは、良い意味で喜怒哀楽が忙しく、人生を何周分かしたような気分になった。もちろん人生は良いことばかりではないけれど、今日ここでたしかに生まれたこの充実感は、人生を重ねれば重ねるほど味わいが深くなるだろう。
あなたに運命の出会いが訪れた時、あなたに辛い別れが訪れた時、あなたに守るべきものができた時、そのあなたの全ての瞬間に向けて、これからも声にならないよの音楽は鳴り続ける。
【Setlist】
1. 君なんかいらない
2. たまには
3. 恋する
4. やんわりポジティブ
5. はじめては全部君がいい
6. sumire
7. 白い花
8. とめどない
9. いつかの話
10. 愛ふれる
11. Lycoris
12. 染愛
HiRoピアノソロ
13. 生きる理由になったから
14. 死にたい夜のBGM
15. この世が生きづらいあなたへ
16. もしも心が泣くのなら
17. インターネットの海を越えて
En1. 特別。
En2. soundless
(取材/文・遊津場)
(撮影・マスダユウタ)