【Eyeインタビュー】1st Album『stic-stic』待望のリリース! VOCALOIDと歌い手文化、クラブカルチャーを経て辿り着いた己の居場所

曽我美 なつめ

曽我美 なつめ

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2026年8月、シンガー・Eyeによるセルフプロジェクト「stic-stic」シリーズを総括した1st Album『stic-stic』がリリースされた。

2020年に歌い手活動を始め、同年にユニット・すいそうぐらしのボーカルへ抜擢。2021年投稿のソロ初オリジナル曲「Wisely」以降は、一アーティストとしての活動へ徐々に重心を移行してきたEye。そんな彼女のブレイクスルーともなったオリジナル曲「ドメスティック・ドラスティック」をはじめとした、渾身の6曲が今作には収録されている。

シリーズ曲はすべてYouTubeや各種配信サービス等でも視聴可能だが、本アルバムには収録曲の公式リミックス作品をなんと9曲も追加収録。近年彼女が注力するDJ活動で培った縁由来の、非常に豪華なコンポーザーラインナップが実現している。

また9月5日に開催されるアルバムのリリースパーティにも、ライブを行う彼女の他に、TeddyLoidや八王子P、KOTONOHOUSEやrinahamuら20名以上のDJが集結。この日出演する面々は、カルチャー内で盛り上がりを見せるインターネットミュージック関連のクラブシーンにおいて、大勢のリスナーがその名をよく知る人気クリエイターばかりだ。

今回はそんな一大プロジェクトの音源リリースを経て、大きな期待を集めるイベント開催直前のEyeにインタビューを実施。本格的なメディア取材は初めてだという彼女に、音楽のルーツや自身を形成するマインド、そして今の自身に大きな影響を与えたイベント「NIGHT HIKE」の話まで、その音楽的価値観や人となりに迫る話を約13,000字に亘ってじっくり聞かせてもらった。

INTERVIEW

ルーツのミュージカルを経て、ボカロカルチャーや表現者に憧れ続けて

1st Concept Album『stic-stic』XFD
Eye

──まず、Eyeさんの音楽ルーツはどのようなものになるんでしょう。

Eye: 私は元々、幼少期からミュージカルをやってたんです。幼い頃から音楽を聴いたり、パフォーマンスをすることがすごく大好きな子だったと親からも聞いていて。そんな様子を見た母が、習い事として地元のミュージカル劇団に通わせてくれてたんです。4~5歳ぐらいの頃かな。歌や演技、ダンスがとにかく好きだったんですよね。

──特に好きな作品などはあったんですか? 当時。

Eye: 『レ・ミゼラブル』はずっと大好きですね。よく帝国劇場に見に行ってたし、映画もすごく見てたし。私は特に、エポニーヌという役が大好きなんです。ストーリーでは報われない、失恋してしまう役なんですけど。彼女の悲しみを描いた「オン・マイ・オウン」という曲がすごく良くて、中学の頃はそれをずっと歌ったりもしてて。

あとは昔、帝国劇場で開催された『レ・ミゼラブル』のファンイベントにも参加してました。本格的なオーディションというよりは、ファンがコスプレでパフォーマンスするとか、子どもと一緒に歌いましたとか、そういう『レ・ミゼラブル』への愛を感じるパフォーマンスなら何でも参加OK、みたいなイベントで。いつも作品を上演してる帝国劇場のレッスン室で、実際に『レ・ミゼラブル』の監督さんや演出家さんにパフォーマンスを見てもらえる。作品のファンにとってはもうその経験だけで幸せ、みたいな(笑)。

──Eyeさんの歌を聴いていると、ミュージカル出身というお話は少しわかる気もします。表現力の豊かさですとか。

Eye: 今も、ミュージカル出身って話すと納得されることが多いですね。私の歌い方、ハキハキしてて歌詞が聴き取りやすいらしくて。やっぱり当時、そういう歌唱をすごく練習してたので。滑舌や抑揚のつけ方とか。それは今の活動にも活きてますね。

──そこから、VOCALOIDや歌い手の文化にはどんな流れで出会ったんでしょう。

Eye: 同じく中学の頃かな。友達にボカロを教えてもらって聴き始めたのが始まりでした。2011年…それこそ「千本桜」とかを聴いて「すごい!」ってなって、そこからどっぷりVOCALOIDシーンに浸かっちゃって。その延長で自然と「歌ってみた」にも触れた形です。

──当時お好きだったボカロPさんや歌い手さんはいますか?

Eye: たくさんいらっしゃるんですけど…敢えて挙げるならやっぱりGigaさんですね。当時はダンスミュージックやクラブサウンドという認識もなく、普通にボカロ曲として大好きだったんですけど。今思えば当時からGigaさんや八王子Pさん、kzさんなどのエレクトロサウンドに強いボカロPさんを好んで聴いてました。

その影響もあって、歌い手さんはReolさんにドハマりしてて。歌い手時代もそうでしたし、アーティストとしてデビューされた後もずっと追ってます。GigaさんとReolさん、あとは当時からよく一緒に共作されてたTeddyLoidさん。この3人はずっと憧れ続けてる方々ですね。

──そのルーツが、ご自身の曲や直近のDJ/クラブイベントへの出演にも影響してるんですね。

Eye: あと実は、昔一度、歌い手としても活動してたんですよ。中3~高1の頃かな。「私も『歌ってみた』やってみたい」と思って、全部で1万円ぐらいの安いマイクセットをネットで購入して。当時は別の名義でしたし、その頃繋がっていた方々とはもう完全に縁が切れちゃったんですけど。

その時の活動は結局、受験があったので辞めちゃって。ただその後、また音楽活動やりたいな、何かしら芸事に従事したいな、東京に行ってオーディションでも受けようかな、と思ってたところ、コロナ禍に入っちゃって。何もできなくなったけど「じゃあ昔みたいにインターネットで活動してみたらどうだろう」と思って、再出発したのが今のEyeという名義になります。

歌い手文化の拡大と弊害、忘れず持ち続けた“創作へのリスペクト”

「Wisely」
Eye

──Eye名義での初投稿が2020年8月。同年12月にはユニット・すいそうぐらしとしても活動を始め、翌年2021年には初オリジナル曲「Wisely」を投稿されています。

Eye: 元々ソロでもオリジナル曲を出していきたいな、とは思ってたんです。既存曲をカバーする歌い手の活動にももちろん面白さはありますが、やっぱり自分の価値観や考え方を出すのは難しくて。アーティストとしてのカラーを出すには、カバー曲を出すだけじゃ自分を世の中にアプローチできない。そう思ってオリジナル曲を作りたい、と考えるようになったんです。

この「Wisely」も作曲はyowanecityさんにお願いしたんですが、歌詞は私が書いてて。アートワーク面もイラスト等を一切使わず、MVもリリックビデオのみで作ってます。歌い手の初オリジナル曲としては、正直かなり尖った作品なんですよ。普通なら歌い手さんの固定イラストのビジュアルがあって、MVではそのキャラが歌ってて、楽曲も有名ボカロPさんに描き下ろしてもらう、みたいな。そういうケースが大半なんですが、これに関しては、私自身がそういうことをしたくなかったのが結構大きくて。

──それはなぜ?

Eye: 私が歌い手を始めた2020年頃って、再度ボカロシーンにかなり注目が集まってた時代で。コロナ禍の影響でボカロPさんや歌い手さんもすごく増えて、界隈自体もめちゃくちゃ盛り上がってたんです。一方で、人が増えた分いろんな価値観の人も増えたというか。歌い手さんの中にもちゃんとリスペクトを持って活動する人がいる反面、ボカロPさんが作る楽曲を適当に扱う方や、まるで自分の曲かのように扱う人も増えていて。「自分はそうなりたくない」という気持ちを、ずっと自戒にしていたんです。

ただ、私も曲を作ることはできないので。どれだけ大変な思いでボカロPさんが音楽を作っているかは、真に理解できないかもしれない。でもなるべく自分もクリエイティブな部分に関わって、プロデュースの責任をちゃんと自分で負って、やりたいことをしっかり曲にしたい。そう思って、“普通の歌い手さんがやってない”ことをしたのがこの「Wisely」でした。

ありがたいことにそれが作品を通して伝わったのか、この曲はボカロPさんからの評判もかなり良くて。私のそういう考え方が、ボカロPさんたちにも認めてもらえたのかな、と思って嬉しかったですね。その背景もあって、当時から歌い手の友達ももちろんいるんですけど、どっちかというと私、ボカロPさんの友達の方が多いんですよ。

──0から1を作るクリエイティブ志向や、創作へのリスペクトといいますか。その価値観が、ボカロPさんとも共鳴しやすいんでしょうね。

Eye: 元々「歌ってみた」の文化って、ニコニコ動画で素人が本気で自分の好きな曲を勝手にカバーした、というノリのもので。その本質は当然、今も変わらないんです。でもコロナ禍によるシーンの盛り上がりで、それによってお金を稼げるようになってしまった。「歌ってみた」単体では稼げないけど、そこを入口に配信やグッズ、ライブ出演なんかで稼ぐ方法が確立された、というか。

それ自体は良い面もありますが、結果的に一部の歌い手さんの中では、「歌ってみた」の捉え方が変わってきたようにも感じるんです。好きな曲を歌うんじゃなく、自分のブランディングのために「歌ってみた」をやる、という。そうなると、オリジナル曲を“利用している”認識になったり、曲に対するリスペクトが薄くなる人も出てきたりして。

実際にボカロPさんの知人が多い中で、そんな人たちを皆さんが快く思ってないことも知っていたので、自分はそうならないように、と。作った方が曲に込めた思いにちゃんと向き合ったり、「自分が好きだからこの曲を歌う」という純粋な動機だったり。そういう部分はすごく気を遣ってましたね。

──今も昔も、やはり長年最前線で活躍されている歌い手出身の方は、皆さん共通でその謙虚さを大事にしている印象です。ちなみにこの「Wisely」を共同制作されたyowanecityさんは、今アルバムの楽曲も一貫して手がけられています。最初にEyeさんがyowanecityさんを起用したきっかけは何だったんでしょう。

Eye: さっきも少し触れたように、最初の曲を出す上で、すでに売れているボカロPさんにお願いするより、私の耳で見つけた本当にいいと思えるボカロPさんに提供を依頼したい、という考えが大前提で。その中で出会ったのがyowanecityさんだったんです。確かきっかけは、ボカコレ2021春の「イシェド」かな。ルーキー部門で注目を浴びたことで私も知ったんですが、「この人は絶対に光るものがある、ぜひお願いしたい!」と思って。当時yowanecityさんも書き下ろし提供の経験はまだほぼなくて、一緒にいろいろ試行錯誤しながら「Wisely」を作った記憶がありますね。

その後、「stic-stic」シリーズまで2年くらい期間が空いたんですけど。その間私はすいそうぐらしの活動に注力してたので、ソロ活動があまりできなかったんです。ただいろいろ周りの環境も変わる中で、徐々にEyeの活動をもっとやりたいモードになっていって。しばらくオリジナル曲も出せてなかったし、これからガーッといろんな活動をするぞ、みたいな、解放感・勢いのある強い決意を込めた曲を出したいな、と。そんな思いから、シリーズ1作目の「ドメスティック・ドラスティック」をyowanecityくんに発注しました。

強気なマインドの原点は“劣等感”。1stアルバム『stic-stic』制作経緯

「ドメスティック・ドラスティック」
Eye

──ということは、今回の「stic-stic」シリーズはアルバムやプロジェクトの大枠が最初からあったわけじゃないんですね。

Eye: そうなんです。「ドメスティック・ドラスティック」も当初、完全に単発で作った曲でしたね。曲題やアートワーク、イラストも全部自分でプロデュースして、「こういう感じにしてください」ってこだわり強めに発注させてもらいました。曲も「サビはこんな感じで、もう1回繰り返して、メロディはこういうちょっと違った感じにしてください」とか、「間奏も急に落ち着く箇所を1個作って、そこからだんだん盛り上がって本間奏になる感じで」とか、結構細かく構成も指示させてもらって。そうして作った曲を投稿したら、ありがたいことにすごく評判が良くて、数字もパッと伸びて。「これを評価してもらえるんだ」ってとっても嬉しかったんですよ。

元々yowanecityくんとは、今後もずっとやっていきたいと思っていたので。じゃあ次回作もお願いしようとなった際、せっかくならこれをシリーズ物にできないかな、ってその時ふと思いついたんです。曲名の単語の語尾がたまたまスティックスティックで被ってたので、じゃあ「stic-stic」シリーズにしよう、と。言葉縛りで先に曲題から考えるか、って語尾にsticがつく言葉をいろいろ調べたら、これが思ったよりたくさんあったんですよね(笑)。当初三部作ぐらいで考えてたけど、結果的に6曲ぐらいはできそうだぞ、と。「じゃあそれでやっちゃろう」と最初に各曲のタイトルを設定して、どういうコンセプトで、どういう曲調で、どういう歌詞で、というのをそれぞれ考えた形でした。

そこから「マジェスティック・サディスティック」の頃ぐらいに、思ったより反響も大きいし、これは単曲で終わらずにアルバムとしてまとめたいな、と全体の構想を始めた感じですね。

「マジェスティック・サディスティック」
Eye

──「マジェスティック・サディスティック」の投稿が2024年11月なので、最初の構想からアルバムリリースまでの期間がおよそ2年弱。楽曲投稿や制作は、想定通りのペースで進行しましたか?

Eye: 最初の2曲を出した段階で、いろんな方から「あれは伸びるからなるべく早くやった方がいい」と言われて、私も気持ち的に焦った部分はあったんですが。どうしても個人活動なので、資金にもスケジュールにも限界があって。曲も一瞬でできるわけじゃないし、他のクリエイターさんも各々のスケジュールがあるし、数ヶ月に1曲のペースは維持できないな、と。でも現段階でこれだけ評価されてるなら、時間がかかっても「stic-sticシリーズの新作が出る」という話でみんな興味は持ってくれるはず。だからちゃんと丁寧に作っていきたい、と思ったんです。

一旦3~4曲目までは、他のクリエイターさんの制作スピードも鑑みつつ無理なくやろうと進めていって。4曲目の「ファンタスティック・ナルシスティック」を出した頃から、アルバムの具体的な発売時期や構成を改めて設定しました。アルバム初出の新曲も収録したかったので、じゃあその辺のスケジュールも加味して来年2026年ぐらいに出そう、と。

──加えて今作は、映像面での世界観の統一感もポイントかと思います。

Eye: イラストレーターの鯱ノ丸さんも、私がネットで絵師さんを探してる中で出会ったんです。ものすごく素敵なイラストを描かれてたので「もっと多くの人に見られるべき!絶対にこの方にお願いしたい!」となって。鯱ノ丸さんも当時は「stic-stic」シリーズのようなテイストはあまり挑戦したことがないと仰ってたんですが、「そこをなんとか」とお願いしまして。結果的に「作風の幅が広がってめっちゃありがたかったです」と仰ってもらえたりしましたね。

MVとデザイン関連は、クリエイターのtugutuguさんにお願いしています。「Wisely」のMVも担当してもらったんですが、この時の出会いもなかなか印象的で。実は「Wisely」の投稿時、当初依頼していた動画師さんと連絡が取れなくなったトラブルがあったんですよ。MV投稿当日になっても連絡がなくて、私からファンの方にお詫びの投稿をした翌日に、「ごめんなさい、やっぱり動画できません」と連絡があって。「どうしよう」となった結果、SNS上で代わりの動画師さんを公募したんです。そしたらすごく大勢の方からご連絡があったんですけど、その中の一人がtugutuguさんでした。

連絡をくださった方の中にはすでに大きな実績のある方もいたりしたんですが、その中でも私はtugutuguさんの作品にすごく光るものを感じて。当時はまだボカロの文字PVを趣味で作ってる、みたいな感じだったんですけど、今や大手VTuberさんのMVなんかも担当してますから。私の目に狂いはなかったな、と(笑)。私は彼の作るデザインがずっと大好きなので、今もMVやグッズのデザインをよくお願いしていますね。

Eye 1st Concept Album『stic-stic』フライヤー

──お話を聞いていると、Eyeさんからは一貫して「自分の目で選んで信じた人たちと進んでいきたい」という気概を感じます。ハングリー精神といいますか。そのマインドは昔から、ご自身の中にあったものなんでしょうか。

Eye: 負けん気というか、自分の中で劣等感を燃やして進んでる感覚は確かに昔からありますね。周りから見た時、私のブランディングには“強い女”の印象がかなりあると思うんです。でも、実は昔すっごいいじめられっ子だったんですよ。

不登校の時期もあったし、コミュニケーションや人間関係が全然上手くいかなくて悩んで生きてきた過去もあって。人一倍その点に関して強い劣等感を抱いてきたし、周囲から認められたい、他人から愛されたい、という気持ちは当時からかなり強いです。自分より上手くいってる人や、人から愛されてる人を見るとやっぱりすごく悔しい。でもそこで落ち込むんじゃなくて、自分もそっち側になってやる、って。自分も絶対認められて、たくさんの人に評価されてやる、って気持ちになることが多いかもしれません。

憧れだけじゃなく、劣等感ってすごく強い燃料になるんですよ。「ドメスティック・ドラスティック」を出した時も、実は他ですごく悔しい思いをすることがあって。絶対にEyeのソロ活動で伸びてやるって気持ちで出したものが実際に評価されて、その分嬉しさもひとしおでした。

だから今でも、協力して下さってるクリエイターの方々にはすごく自信を持っていて。これだけいいものを作ってもらったんだから伸びないわけないだろ、って気持ちで毎回曲を出してます。自分自身や自分の歌にはまだまだ自信がないけど、楽曲やイラスト、動画やデザインなんかの自分にはできないことを、すごく心強くてセンスのいい仲間が支えてくれてる。だからこそ自分の作品に対して「絶対評価されるべきでしょ」って強い気持ちになれたり、彼らに救われてやってる節もありますね。

──そう思うようになった転換点は、歌い手活動を始める前にあったものですか?

Eye: 自分の人生のターニングポイントでいくと、大学1年の終わり頃ですね。人間関係とかがあまりにも上手くいかなくて、自分の気持ちが本当に一度どん底に落ちたことがあって。でもその時に、ただ愛されたい、認められたいって嘆くだけじゃなく、本当にそう思うなら自分がそういう人間に変わらなきゃいけない、って考え直したんです。それで自分のダメな部分に改めて向き合ったり、人に愛されるためにはどうすべきかを論理的に考えて、自分の形を叩き直す作業をしたことがあって。

当然最初は本当に苦しかったですけど、だんだん周囲の反応がちょっとずつ変わってきて、「ちゃんと上手くいってるかも」って感じ始めて。おかげでその後、人生で初めて本当にちゃんとした成功体験を積むことができたんです。ちゃんと自分で考えて、適切な努力をすれば報われるんだ、って。それを実感して以来、その経験に倣って生きてる感じはありますね。

──お話された自分の“矯正期間”は、実質どれぐらいの年月だったんでしょう。

Eye: 半年から1年ぐらいですね。最初は本当に苦しかったです。自分のアイデンティティだった部分すらも叩き直して、どうやったらより人に好かれる自分になれるか研究し続けて。自分が自分じゃなくなるみたいで最初は怖かったですけど、やっぱり人間何があっても変わらない、芯の部分は絶対に残るというか。結果的に自分の本質が変わることはなく、ちゃんと良くない面やこうすべきだなって部分だけ改善して、いい方向に向いていけましたね。

当時の経験は、今の活動にもすごく活きてます。アーティストとしてのアピールって、いわばそれと同じじゃないですか。どうやったらより大勢に見てもらえるか、かつ自分のままで愛してもらえるかを考える活動というか。そのやり方をパーソナルな部分で一足先に経験できたのは私の強みでもあるな、と。いろんな面でトライアンドエラーを繰り返しながら、今もなるべく論理的な思考で活動をしていますね。

出会いや交流が財産に。やっと見つけたクラブカルチャーという居場所

「ファンタスティック・ナルシスティック」
Eye

──Eyeさんの本質が垣間見える素敵なお話でした。少し話が戻りましてアルバム『stic-stic』についてですが、今作収録の既存曲リミックスバージョンに関してもぜひ触れておきたくて。

Eye: 先ほど話した4曲目の「ファンタスティック・ナルシスティック」頃に考えたアルバム構想の中で、このリミックスバージョン収録の案も出てましたね。なので去年の秋頃から、いろんな方に「スケジュール押さえといてください」とお願いしていました。当初から、6曲だけだとアルバムとしては曲数が微妙だな、と考えていて。「Wisely」や私が携わった他のオリジナル曲を収録する案もあったんですが、やっぱり「stic-stic」シリーズのコンセプトを崩さずにアルバムを出したい、と。じゃあどうしようかと考えた際、2024年から始めたDJ活動がひとつ大きな要素になってくれたんです。

──DJ活動は元々、どんなきっかけで始められたんでしょう。

Eye: きっかけは「NIGHT HIKE」でしたね。2023年に始まった、「ネットカルチャーから生まれた音楽・イラスト・映像が一堂に会すミュージックアートフェス」というコンセプトのイベントです。最初は私も一観客として遊びに行ってたんですが、何度か足を運ぶうちに自分もDJをやってみたいと思い始めて。

DJさんがステージでやってることを要約すると、自分で曲をチョイスしてそれをミックスして別の曲に変えていく作業なんですけど。それを見ているうちに「私だったらこの曲は絶対この曲とミックスするのに」「この曲の次はこれ流したら絶対盛り上がるだろうな」って頭の中で考えるようになってきて。誰かにやって欲しいと思っても誰もやってくれないから、「じゃあ自分でやればいいんじゃない?」と。それで始めた形でしたね。

それ以降ありがたいことにいろんなDJイベントに出演させていただいて、徐々に自分の周囲の人間関係や環境も変わってきてて。元々ボカロシーンの知人が多かった中で、最近はクラブ界隈の方や、ボカロシーンの中でもDJ活動をしている方と仲良くさせていただくことが増えてるんです。そういう方は皆さん、自分のDJ用にリミックスやブートレグ音源を制作してる方も多いんですよね。元々クラブ向けでない楽曲を、クラブでも盛り上がるアレンジにしているというか。

自分の「stic-stic」シリーズもエレクトロサウンドではありますが、クラブイベントで流すにはもう少しパンチが欲しいな、と思う時もあって。じゃあクラブ向けにリミックスしてもらうことで、私もDJで流せるし、ライブでももっと盛り上がる曲にブラッシュアップできるんじゃないかな、と。そんな経緯で、クラブ界隈で出会ったトラックメーカーさんやDJさん、ボカロPさんにリミックスをお願いしよう、と考えたんです。

──ということは、クラブカルチャー自体に興味を持った入口もNIGHT HIKEだったんですか?

Eye: そうですね。最初は出演されるボカロPさん目当てでイベントに足を運んだので、当時は本来のクラブミュージックやエレクトロのジャンルにもほぼ触れてなくて。ただNIGHT HIKEは、運営の方がそっちの音楽シーンにも触れて欲しい、という意識を持たれているので、エレクトロやテクノのジャンルで昔からDJとして活躍している方、大沢伸一さんや石野卓球さんなんかも時々ブッキングされるんです。そういった方々のパフォーマンスに、「めっちゃかっこいい!」「こんな音楽や文化があるんだ」ってすごい衝撃を受けて。それもひとつ、DJを始めたきっかけでしたね。

DJを始めた当初は自分の好きな曲、ReolさんやGigaさんの曲をいっぱい流してたんですが、いろんな方のDJを見る中で「あの曲面白い!」「へえ~、こんな曲もあるんだ!」ってすごくたくさん学ばせてもらって。界隈の方々もみんな優しいんですよ。「Eyeさん、これが好きならきっとこのアーティストも好きだよ」「この曲も好みなんじゃない?」っていろんなことを教えてくれるんです。そこからどんどん、クラブミュージックやDJ文化にハマっていきましたね。

「ミスティック・アクロスティック」
Eye

──より具体的に言語化するなら、クラブカルチャー/ミュージックのどんなところをEyeさんは「面白い」と感じたんでしょう。

Eye: やっぱりクラブって、インターネットの界隈から比較するとすごく陽キャな文化というか。ネットでの活動って当然、オンライン上で会話したりゲームしたりがメインで、実際に会おうとなってもなかなか出不精の人が結構多いと思うんです。でも、私自身は割とアウトドアな人間で。外で何かしたり、誰かと会って交流するのも大好きなんですよね。どちらの性質も持ってるというか。

なので元々、ボーマス(THE VOC@LOiD M@STER)やニコニコ超会議での音源即売会とかにもよく行くタイプで。その延長でNIGHT HIKEに通い始めたんですが、そういうイベント事はやっぱり、いろんな人との出会いもあるんですよ。久々に昔の知人と再会したり、「あ、○○さんですか? SNSでよく拝見してます、初めまして」みたいなことが結構ある。それがすごい嬉しくて。人とリアルでコミュニケーションを取るのが、やっぱり私は好きなんですよね。

クラブは結局、そんな人たちが集まって音楽を楽しみつつ、お酒をワイワイ飲んで楽しむ場なんです。最近だとインターネットミュージック系のDJイベントでは、ペンライトを振ったりDJさんをガン見しつつ音楽を楽しむ人たちも多いです。でも私はやっぱり、「お、久しぶり~!」とか言いながら音楽で気持ちよくなってお酒を飲む、そんなクラブの“場”がすごく好きで。最初は当然、私もアウェイな立場でした。でも、元々付き合いのある仲の良い人たちが集まってワイワイしてる風景を見て、すごく楽しそうだな、私もここに混ざりたいな、と思うようになっていったんです。

インターネットで顔の見えないお付き合いをするより、この場所に、このクラブに来たらみんないる、みたいな。そういう自分の居場所を作れることも魅力だったのかな。自分が多分、まだ昔のことを引きずってる面もあるんでしょうね。より誰かとの繋がりをちゃんと感じたいというか。ネット上よりもリアルでいろんな人に会って、「お、Eyeちゃんじゃん」「ヤッホー、お酒飲もうよ」みたいになる方が、私はすごく楽しいなって。

──ある種、昔憧れていた場所に今立っている。そんな喜びもあるんじゃないですか。

Eye: そうですね。大人数で、年齢も性別も関係なくワイワイすることにすごく憧れてたというか。学生時代、いわゆる一軍のキラキラした人たちにいじめられながら、どこかそれに憧れてた。自分にできないことをしていて「いいな」って思ってたんでしょうね。だから今、みんなで共通の好きな音楽でどんちゃん騒ぎしながら、お酒飲んでワイワイして。先輩後輩関係なく、男女関係なく遊べるのがすごく楽しいんだと思います。

国境を越え海外リスナーにも! アルバムリリース&2大イベント同日開催

Eye 1st Concept Album『stic-stic』モックアップ

──そんな思いを経て先日8月13日、Eyeさんのお誕生日当日にアルバム『stic-stic』が無事リリースとなりました。今の心境としては率直にいかがですか?

Eye: 一つほっとしたというか、肩の荷が下りたというか。すいそうぐらしでは去年ファーストワンマンやアルバムリリースも経た中で、次はEyeでもアルバムを出してイベントをするのが今年の目標だったので。達成できてよかったと同時に、まだまだここからいろいろやっていかなきゃ、と思ってますね。終着点でありつつも、やっとスタートラインだな、って。

今作もある意味自己紹介的な作品になったので、これを携えつついろんなところでライブして、アーティスト・Eyeを大勢に見てもらいたいな、と。今後もたくさんライブ・DJイベントへ出演させていただくので、そこで私のパフォーマンスを見て「いいな」と思ってくださった方に、この作品を手に取ってもらえると嬉しいですね。

──リスナーさんの反応はいかがでしょう。印象的なお声などありましたか。

Eye: 実は「stic-stic」シリーズって、日本だけでなく海外のリスナーさんもかなり多いんです。特にYouTubeと、あとはサブスク。リスナーさんの8割は海外の方と言っても過言じゃなくて。本当に100ヵ国以上の方が聴いて下さってて、YouTubeでも海外コメントがすごく多いんですよね。

今回アルバムを出すにあたって、どう販売するのが一番いいかいろいろ考えたんです。「M3(※音楽系同人イベント)で出そうかな」とか思ったんですけど、やっぱり海外の方にも手に取って欲しいと考えた時に、オンライン販売をまず始めるのが一番良さそうかな、と。booth(※自家通販向けサイト)は海外配送も対応してるので「海の向こうの方にも買ってもらいたい」とそこで販売を始めたら、ちらほら海外から「初めて日本の音楽アルバムを買いました」ってご報告もあって。よかった~と思いましたね。

──近年、日本のインターネットミュージックはかなり急速に海外へファンの裾野を広げています。Eyeさんのリスナーさんも、やはりそういった方が多くいらっしゃるんですね。

Eye: このシリーズの曲なんて、正直海外の方は何を言ってるかわからない部分もあると思うんです。歌詞も言葉遊びが多いし、日本人でも怪しい人がいるかもしれない。実際、自分のおばあちゃんには「よくわかんないよ」って言われたりしたんですけど(笑)。でもそんな歌詞を翻訳しようと頑張ってくれたり、あとはやっぱりサウンドが好きで聴いてくれてる方も多いのかな、と。「日本語はわかんないけどすごいかっけー!」って聴いてくれてる。私、音楽のいいところってそれだと思ってて。「言語化できないけどいいじゃん」って一番素敵な感覚ですよね。もちろん言語化も大事だけど、「わかんないけどめっちゃいい」ってすごく根本的な感情だな、と。なので、自分の曲に対してそう思ってもらえるのはとても嬉しいですね。

「エゴイスティック・ヒューリスティック」
Eye

──重ねて9月5日にはEye 1st Fan Meeting「Eye Contact」、そして同日にEye 1st Concept Album『stic-stic』Release Party「stic-stic party」も開催されます。夕方にファンミ、その後そのままオールナイトパーティということで、この日は大忙しですね(笑)。

Eye: そうなんです(笑)。去年アルバムの構想を考えた時に、最終的にイベントも何かやりたいな、と思って。一番やりたかったのはファーストワンマンライブですが、個人活動でワンマンをやることに対してちょっと日和っちゃったというか、まだやっぱり少し自信がなくて。じゃあ何ができるか考えた時に、ナイトパーティの主催だったら今までのDJ経験も活かせそうだな、と思ったんです。周りにもアルバムのリリースパーティをやっている方が結構いたので、じゃあナイトイベントをリリースパーティとしてDJさんをお招きしつつ、自分もライブをやってワンマン代わりにできたらいいな、と。

本当は日中開催も考えたんですが、やっぱり自分がガンガンのクラブサウンドの中、お酒を飲みつつワイワイする空間が好きなので。デイイベントだとみんなが結局乗り切れない感じになる時もあるというか、やっぱり深夜の方が夢中になって騒いでお酒でベロベロになって…みたいな最高に楽しい空間を作れるよな、と。ただ深夜イベントだと、未成年の方をはじめ「遊びに行くのはちょっとキツいな…」という方もいるので、その救済措置としてファンミーティングを同時開催した形です。

──会場や出演者の方も、Eyeさんにとって縁の深い面々が揃っている印象です。

Eye: いろんなイベントに出演する中で仲良くなった方や、私が個人的にすごく好きで「ぜひ出演してください」とオファーした方、あとは今回リミックスを担当いただいたトラックメーカーさんたちをお招きしています。会場も、イベントで何度もお邪魔してる渋谷のclubasiaというお店ですね。本当にありがたいことに店長のスーさんにもすごく良くしていただいてて、「Eyeちゃんだったら貸したげるよ」って。おかげさまで今回のイベントが実現した側面もありました。本当にいろんな意味でただの私得パーティという感じです、完全に(笑)。

──いえいえ、それこそがイベント主催の醍醐味ですからね(笑)。

Eye: DJに関しては素晴らしい出演者さんのプレイを楽しんでもらいつつ、ただ一番はやっぱり私のライブパフォーマンスを見てもらいたいな、と。今回はいろんな方に作っていただいたリミックスバージョンを中心に、アルバム総ざらい的なステージというか、Eyeはこういうライブをやるんだよ、というパフォーマンスができたらと思ってます。

ありがたいことに、9月もライブ出演の予定がかなりありまして。なので出たばかりのアルバムから、リミックスバージョンでもたくさんパフォーマンスをやっていく月になりそうですね。9月26、27日はお台場で、初の2days開催になる「暴力的にカワイイ」にも出演予定なので、そこでのパフォーマンスもアルバムの宣伝に繋がるといいな、と思います。私自身は2日目に出演しますが、実は客演でもいろんな方のステージにお邪魔する予定なので…(笑)。

──今後「こんな挑戦がしたい」という展望などは具体的にありますか?

Eye: 一旦「stic-stic」シリーズはここで一区切りですが、Eyeのオリジナル曲は今後も引き続き出したいな、と。何かあるとしたら、やっぱり次はワンマンライブをやりたいですね。そこに向けていろいろ準備しつつ、でもyowanecityくんとのタッグでまたシリーズものを作りたい気持ちもありつつ…。ワンマン以降にはなる気がするんですけど、そういう計画をまた立てたいな、とも考えてます。

──いいですね。お話を聞いていると、身体も時間も足りない~!という気持ちがすごく伝わってきます(笑)。

Eye: そうなんですよ、本当に(笑)。すいそうぐらしの活動もありますし、いろんな歌唱依頼やイベント出演も受けたり、実は今、DJ活動で出会ったトラックメーカーさんとも合作を作ってて。もうホントに「大変大変~!」って感じです(笑)。

(取材/文・曽我美なつめ)

INFORMATION

PROFILE

Eye プロフィールアイコン

Eye(アイ)

2020年より歌い手として活動を開始。人気音楽プロジェクト「すいそうぐらし」のボーカルも務め、ソロ名義での活動を主軸に、2024年秋からはDJとしても活躍。多彩な声色と豊かな表現力を武器に、唯一無二の存在感で観客を魅了している。

自身がセルフプロデュースを務める楽曲シリーズ「スティック・スティックシリーズ」では構成から楽曲、アートワーク、MVに至るまですべて自らディレクションを行い、その緻密な世界観が国内外で高く評価されている。

「スティック・スティックシリーズ」の反響を受け、2026年、自身の誕生日である8月13日にEye 1st Album 『stic-stic』 をリリースすることを発表。シリーズの楽曲に加え、TeddyLoid, KOTONOHOUSE, piccoといった世界規模で活躍中のDJ/トラックメーカーによるRemixを多数収録したフルボリュームのアルバムとなっている。

また、9月5日には自身初となるファンミーティングとリリースパーティーを開催することも決定。1st Albumリリースを皮切りに、今後更なる活躍が期待される、新進気鋭のアーティストである。

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RELEASE

Eye 1st Album『stic-stic』ジャケット画像

Eye 1st Album
『stic-stic』

リリース日: 2026年8月13日
形態: CD、デジタル配信(9月2日〜)

LIVE / EVENT

Eye 1st Fan Meeting「Eye Contact」フライヤー

Eye 1st Fan Meeting
「Eye Contact」

2026.09.05.Sat
OPEN 16:00 / START 17:00


Eye 1st Concept Album『stic-stic』Release Party「stic-stic party」フライヤー

Eye 1st Concept Album『stic-stic』
Release Party
「stic-stic party」

2026.09.05.Sat
OPEN / START 23:00