11月5日、渋谷Milkywayにて、NEXTアーティストLIVEプロジェクト『BIRTH vol.12』が開催された。
『BIRTH』は2021年11月から定期開催されている、「新しい才能の誕生」の場所作りをコンセプトとした新人アーティストライブイベントシリーズ。過去にはyutoriやConton Candyも出演している。
12回目となる今回は、KAFUNÉ、皆川溺集合体、PompadollS、sidenerdsの4組が出演。初ライブのアーティストも含め、最新鋭のセンスを持つメンツがライブでどのような新しい音楽エネルギーを見せたのかレポートしていく。
KAFUNÉ
あなたの人生に寄り添い続ける決意を感じた初ライブ
今回が初ライブとなる彼ら。Takakuzo(Ba./DJ)による重厚なDJのビートでミステリアスな雰囲気に包まれる中、人生(Vo.)が登場。「踊ってねー! よろしく!」から『理想論』がスタートした。今までオンラインで響かせてきた歌声は、リアルで聴くと「こんな天性の透明感を持っているのか」と思わされるほど澄んでいた。
2曲目以降はまた違った音と感情を提供する。『脳内反省会』では、焦燥感や切迫感を味わわせるトラックと歌声。ワードや世界観をより鮮明に脳に刻み込ませる女性ボーカルのサンプリングが印象的だった。
「初めまして、KAFUNÉ(カフネ)と申します。この日をとても楽しみに待ってました!」という初MCの中、Takakuzoがベースに代わり、サポートキーボードの川口裕翔が登場。生音によって鳴らされる『Sleep』では、人生のハイトーンボイスの自由さが増し、フロアにも解放感を与えたのかクラップが起こる。4曲目『踊れない』は、〈ほんと生きづらいわ〉〈踊れないわ〉という歌詞と相反するような自由なダンスビート。“それでも踊るように生きていく”という世間への反骨心のように感じたのは考えすぎだろうか。
「KAFUNÉは“人生”を歌ってます。例えばとても傷ついた時とか、悲しい時とか、ベッドの中で小さく縮こまってるとか。そういう等身大の音楽です。僕は優しさにも毒があると思うし、それでできた傷にもいつか愛が芽生えると思ってます。なので皆さんが何か思いを抱えた時にKAFUNÉの音楽があることを願って。最後に、小さな仕返しとして書いた曲で終わりたいと思います」
ラストのMCで人生はそう話し、『大人ごっこ』へ。痛み、苦しみ、鬱を1人の人間として丸裸にして歌い、最後は世に蔓延る見せかけの“正義”に〈大人ごっこしてろ〉と吐き出すように届けて、初ライブは終了した。今後、心がどのような状況に陥っても、KAFUNÉの優しく縛られない歌声とそれを引き立てる表現豊かなトラックが、あなたの人生というドラマを救ってくれる。そう示した初ライブだった。
【Setlist】
1. 理想論
2. 脳内反省会
3. Sleep
4. 踊れない
5. 大人ごっこ
皆川溺集合体
素の音楽の持つ良さに気付かせてくれた25分
挨拶があるぐらいでMCはない。ただその音楽の説得力はすごくて、時に激しく、時に繊細に、聴く人の心を解いていく。緻密で作品的な姿を見せることもあれば、ピュアさや凶暴性も兼ね備えており、この25分の間に何度も心がざわついた。素の音楽が持つ澱みや角張りも活かして届けてくれるからこそ、心を奪われるのかもしれない。
ボカロP出身の皆川溺(みながわおぼれ)率いるバンド、皆川溺集合体。1曲目『瞳のなか』をクールに演奏したかと思えば、甲高いギターが鳴る中、カウントを叫んで始めた『遠泳』。波のような音の押し引き、展開の多様さに抗えず揺蕩っていくフロア。続く『鯨と三毛猫』でも、そのバンドサウンドのたくましい背中に体ごと預けてしまっている自分がいる。
『悪ふざけ』では一気にスローテンポに。メロディアスなギターの中で歌われる、大切なただ1人に向けられた歌詞を聴いてみれば、茶目っ気も生活感も感じられる。続く『ベージュ』でのZEROKU(Ba.)の口笛や青柳創太(Gt.)のコーラスをはじめ、フロント3人がうい(Dr.)の鳴らすリズムに合わせて横一列となってプレイする姿は、まさに集合体だからこそ生まれる生のグルーヴ。
ラストの『TINY EYES SPARKLE EYES』では真っ赤な照明の中、大きな音の塊の怪獣が渋谷Milkywayを侵攻していく。皆川溺の喉を掻っ切るようなシャウトもあるパワフルな楽曲は、今後どのような対バンでも破壊力となること間違いなし。アウトロも容赦がなくて、余韻ごと消し去った。
そんなステージに対するフロアの反応は人それぞれだった。1人として同じ生活や心臓のリズムはないから、事件性を感じたタイミングや脈拍が速まったタイミングは各々で違ったのだろう。フロアは終始小刻みに揺れながらも、そのリズムに一定さは無いように見えた。今後のライブ活動にも意欲を見せている皆川溺集合体には、似合うライブハウスが全国に多数ある。リスナーは普段のそのゴツゴツとした心のまま、彼らと出会ってほしい。
【Setlist】
1. 瞳のなか
2. 遠泳
3. 鯨と三毛猫
4. 悪ふざけ
5. ベージュ
6. TINY EYES SPARKLE EYES
PompadollS
生でしか感じられない5ピースバンドのエネルギー
PompadollS(ポンパドールズ)のステージでとにかく感じたのは、このネット音楽隆盛のご時世に5人組バンドとして活動し、顔を出して歌う意味だった。五十嵐五十(Vo./Gt.)の初っ端から息切れ覚悟の全力ボーカルは、実際に目の前にしないと伝わらない熱狂や一緒に拳を突き合わせたくなるコミュニケーションを生む。それはこの時代において、顔を出して歌うことの意味というものを強く示してくれた。というより、芯のあるボーカルで25分間最後まで衰えず完走していて驚いた。
もちろん、観客にここまで思わせるには演奏技術や緻密な構成力も必要だ。ツインギターが担う各々の役割を感じるメロディ、そこにまた違う色を足してくれる小松里菜(Key.)のキーボード。それを支えるサイカワタル(Ba.)と高橋直人(Support Dr.)のリズム隊。そしてその足し引きと緩急。聴かせる際の小松のキーボードの妖しさは耳に絡みつくし、足す際やスピードアップする際には青木廉太郎(Gt.)を中心に思い切って煽るステージ度胸もある。
あくまで楽曲のレベルの高さがあってこその“ライブで魅せる”であり、4回目というライブ回数は関係なく、5人全員が主体となって(各楽曲に各パートの聴かせどころを入れているようにも感じた)目の前の人を楽しませるという強い気持ちを感じた。
その結果、3曲目『怪物』のようにフロア全員と全身でリズムを合わせる曲もあれば、5曲目『悪食』のように物寂しげなメロディで孤独にしっかり寄り添うような曲もあり、MV曲以外でもフロアを飽きさせない。ラスト『魔法のランプ』の歌い出しの〈なぁ少年〉と伸びやかに歌うパートは、きっと近い将来、1000人以上の手が上がってシンガロングされる光景が広がるだろう。
今回はドラムがサポートである上に、小松は加入して間もないことを考えると伸び代を感じる。1人でも音楽ができる時代に、5人の気持ちを対面でぶつけ合うバンド音楽を選んでくれてありがとう。来年、五十嵐の「PompadollS、開演いたしまーす!」を全都道府県で見たい。
【Setlist】
1. 海底弧城
2. 日の東、月の西
3. 怪物
4. セッション〜スポットライトジャンキー
5. 悪食
6. 魔法のランプ
sidenerds
この爆音に対するあなたの解釈を聞きたい
先ほどのPompadollSとは違うが、確かに燃え尽きることができる危険な高温で、痛覚もないまま昇天していくライブ。ねぎしのはん(Gt.)を中心に、コバヤシクサタ(Ba.)と宮田(Dr.)の空間を切り裂くような力強い演奏。
いや、そういった破壊力のあるパワーだけでなく、このバンドにしかないキラキラで世界の隙間を優しく縫合していくようにも思えた。そんな多彩な世界観に導いたのは、みにあまる雅(Vo./Gt.)の幼気ながらも決してかき消されない唯一無二のボーカルだ。
sidenerds(サイドナーズ)の4人の弾け飛ぶような音をとにかく浴び続けて思ったのは、あぁ僕は本気で空を飛ぼうとしたことがあっただろうか、ということ。この4人が作る本気の音を聴いて、小さなスケールで「可能」とか「不可能」とか考えてしまっていないか?とハッとした。だからこそ大気圏を突き抜けるような繋ぎを経ての『片喰』では、ユートピアに連れていかれたような多幸感、というよりは勝手なエクスタシーを覚えた。たとえ現実でも、探せばラピュタを見つけてしまえるんだなという。
後半に演奏された『☆。.:*・゜』は、森や海の情景も見せてくれる自然の深みのある楽曲。緑の照明がよく似合う。『混ざる』では、白の衣装の雅と黒の衣装のねぎしが0距離で接近。本来引き合ってはいけないモノ同士が引き合ってしまった終末感があり、その邂逅を見た僕らも巻き込まれて灰になって溶け合った気がした。その後、最後に披露された新曲は、「それでも結局朝を迎えるんだな」と感じる肉体的でアップテンポなナンバーだった。
考察系のアニメではないけれども、sidenerdsの圧倒的な爆音を前に思い浮かべる解釈は人それぞれだろう。あなたの解釈をぜひ聞かせてほしい。ともかく4日連続ライブの締め、そして今回のBIRTHの締め、お疲れ様でした。
【Setlist】
1. 入水
2. わたし
3. 風邪
4. 片喰
5. ☆。.:*・゜
6. 混ざる
7. 新曲