ボカロP新世代アーティスト6選|VOCALOID20年を迎えた今、未来を担うボカロPたち

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『ボカロP』、その言葉が有名になったのは2000年代後半のことだ。

2007年に『初音ミク』が登場し、自身で歌わずともクオリティの高い楽曲を作成できるようになったことで、DTM(Desk Top Music)界隈を始めとし音楽表現の可能性が広がっていった。ミクを使用し制作した楽曲がニコニコ動画やYouTubeなどの動画サイトに続々とアップされるようになり、『ボカロP』はインターネットをプラットフォームに活躍しだし、その存在が多くの人々に知られることとなった。

初の日本語対応ソフト『MEIKO』が2004年に登場してから早20年、初音ミクが登場してから17年。歳月が流れる中で『ボカロP』の在り方も幅広いものへと変化している。

現在はインターネットの世界から飛び出しP本人が活躍する事例も多くみられており、音楽業界に大きな影響をもたらしている。著名なところでは、紅白出場経験もある米津玄師(ボカロP名義:ハチ)やYOASOBIのAyaseが有名だ。2024年にアニメ『【推しの子】』第2期のOPが話題となったGEMNのキタニタツヤ(ボカロP名義:こんにちは谷田さん)も元々はボカロP出身であり、Pの由来である「プロデューサー」という意味を越えて活躍する者も多数輩出されている。

本記事では、そんな注目の『ボカロP』新世代の6人を紹介していきたい。

※「VOCALOID(ボーカロイド)」および「ボカロ」はヤマハ株式会社の登録商標です。
※「MEIKO」「初音ミク」はクリプトン・フューチャー・メディア株式会社の登録商標です。


ueil

「初音ミク」の声質を最大限に活かすボカロP
『てんしみたいに』
ueil(歌:初音ミク)

2022年に本曲でボカロPとしてデビューしたueil(読み方:ウエイル)。

楽曲は、儚くも立体感ある打ち込みサウンドで耳心地良いものが多く、聴いていて浮遊感に包まれるような世界観が特徴的だ。ボカロP以外の活動としては、ネットシンガーの「WaMi」とコラボレーションして楽曲提供も行っている。

なんといっても調律のバランスが良く、電子音の控えめなメロディに初音ミクの電子感溢れる歌声がマッチし、爽やかなノイズを発生させている。

楽園市街

目も耳も楽しませる多彩な表現力
『トピアリー [Rebuild]』
楽園市街+初音ミク

楽園市街(読み方:らくえんしがい)は、ボカロP以外にも映像制作やWEBデザインなど多角的な表現を用いて精力的に活動するクリエイターだ。

ボカロPといえば、楽曲作成以外にも自身でMVやイラストを制作する者も多いが、新鋭の代表例と言っても過言ではないのが楽園市街である。なんと言っても視覚と聴覚同時に楽しめる作品が最大の特徴だ。

5年前に出した同名曲のRebuild Ver.が本曲だが、ミクの吐息がより耳元で聴こえるものに仕上がっており、前作と比較するとグッとリズミカルな印象になっている。

Itaby

ミクと人間が溶け合う
『(h / y ?) + our -1』
Itaby feat.初音ミク

YouTubeの「理想とか押し付けてます初音ミク(に)」という説明欄がとても印象深いItaby(読み方:イタビ)。

その自己紹介にふさわしい楽曲群が特徴的で、本曲では自身の歌声をコーラスで用いており、コーラスで聴こえる男性の声と主旋律を歌う初音ミクの声は、電子と人間の邂逅を感じさせ、楽曲がより奥深いものとなっている。

シンプルな楽器に日だまりのようなギター、そして時折シューゲイザー感溢れる轟音。華やかなギターサウンドの中にもざわめきが見え隠れし、聴いている者の感情を高まらせてゆく。

中瀬ミル

ボカロP=世界観の確立
『遠く、遠く、遠く。』
中瀬ミル(歌:初音ミク)

2022年から動画投稿を開始し、MVに使用しているイラストも自身が描いている中瀬ミル。

YouTubeでは、イラストに惹かれたというコメントも多い。楽曲だけでなく、楽曲のイメージとして強く残ることになるMVのイラストを自分自身で手掛けることで、コンスタントにリスナーに自身の世界観を伝えてくる。

初音ミクの他にも音楽的同位体の可不(※)をボーカルに使用した楽曲も多くあり、こちらもどこか仄暗い世界観を身にまとっており必聴だ。特に、新曲の『君が僕を嗤う日』は押さえておきたい楽曲である。

※KAMITSUBAKI STUDIOのバーチャルシンガーたちの歌声をベースとして生まれた人工歌唱ソフトウェア(参考:音楽的同位体プロジェクト公式サイト

ひらぎ

お洒落でセンチメンタルなボカロ楽曲
『天国 (long ver.)』
ひらぎ × 初音ミク

シティ・ポップやジャズの系譜を感じる、テクニカルでお洒落な楽曲が心に刻みつくひらぎ。楽曲のセルフカバーや自身がボーカルのオリジナル楽曲も投稿しているほか、他者の楽曲カバーも行っており精力的に活動している。

ひらぎがボーカルを務める『メーデー』では、本曲とはまた違った質感の楽曲を楽しむことができ、彼の表現の手広さを感じさせる。ぜひ、彼の音楽にじっくりと耳を傾け、聴き惚れてほしい。

海瀬

電子の歌姫が歌う「命」
『断命』
海瀬 feat.初音ミク

VOCALOIDは、喜怒哀楽、様々なテーマの楽曲を歌ってきた。中にはVOCALOIDの特性だからこそ歌えるテーマもあった。

海瀬(読み方:うみせ)の本楽曲も「断命」という曲名通り、生や命について歌っている。伴奏のピアノが切なく、ミクの声をより引き立たせる。〈ただ生きている事を嬉しいと思いたかった。〉生きることについて歌う様子はどこか淡々としているけれど、だからこそリスナーは自分の想いそのものとして受け取ることができるのだ。

電子の歌姫が命について歌う。だから、胸に響くものがある。




VOCALOIDが登場して20年、初音ミクが登場して17年の歳月が流れ、ボカロPたちは表現技法だけでなく活躍の場をも大きく広げた。

20周年を迎えた先の展望として、VOCALOIDの公式サイトには「未来のために何を創っていけるか?」とこれからの20年に対する記載がある。VOCALOIDが生み出された20年前はこのような未来を誰も想像し得なかったはずで、2004年の予測を超えた先に私たちはいるのだ。きっとこれから先の20年もVOCALOIDは無限の可能性を秘めている。VOCALOIDが電子世界で産声を上げ現在に至るまで、その可能性を私たちは間近で見てきた。

ボカロは、そしてボカロPたちは、「未来」で私たちにどんな音楽を響かせてくれるのだろうか。

(文・OHATA)