新世代やインディーズシーンに着目して「あたらしい音楽」を発掘するヂラフマガジンが、2025年の活動に注目したい期待の新人・若手インディーズアーティストを発表。音楽の趣味嗜好も年代も異なるライター陣が2組ずつ厳選し、それぞれの感性で魅力を綴った。
毎年実施している本企画だが、選出基準はただひとつ、ライター自身が「心から推せる」こと。熱の入った紹介コメントとともに、原石アーティストとの出会いをジャンルや国の垣根を越えて楽しんでほしい。
じぐざぐづ
街の気配に溶け込んで
選・横堀つばさ
2023年4月に結成された福岡発の4人組・じぐざぐづを目撃したのは、今年10月に開催された野外フェスだった。
天候の影響で急遽竹田秋雲(Vo./Gt.)の弾き語り形式での出演となったのだが、初東京、初弾き語りにもかかわらず、その姿は堂に入っていて魅力的に映った。フォークの空気感を多分に含み、レトロな感触を漂わせる竹田の歌声が木々を揺らし、西日射す駅前の雑踏に浸透していった様子を覚えている。
1st『さよならエリカ』、2nd『Two Birds』はアコースティックサウンドがシンボリックな柔らかなナンバーだったが、12月にドロップされた3rd『アロワナ』はブリブリのベースや〈アロワナ〉と〈I don’t wanna stay〉の言語横断的な押韻が印象的で、まだまだ隠れているであろう彼らの引き出しが気になるところ。
とはいえ、宮沢賢治の『やまなし』を想起させる一節や敬体を交えた作詞には、日本語へのこだわりが染み出ていて、1970年代以降の日本語ロックの潮流を汲んでいることもうかがえる。
アルバムとして綴じられた際、既発曲がどのような響きを持つのか、新曲ではどのような側面を見せてくれるのかが楽しみだ。
Sazanami
散り際の美しさよ、どうかこのまま
選・横堀つばさ
もし街中に隕石が降ってくるとしたら、あるいは彗星が天を埋め尽くしたなら。そんな突拍子もない妄想をしてしまうほど、フロム大阪の4人組・Sazanamiの音楽は、生命が終わり際に放つ一度限りの煌めきを放っている。
エッジの効いたボーカルが胸の痛い部分を掻きむしることはさることながら、リバーブで余情を残すひんやりとした感触のギターサウンドや広大な草原を思わせるどっしりとしたドラムプレーをはじめ、始動1年目にしてSazanamiとしてのサウンドスケープが確立されているように思う。
ここまでリリースされた3曲はいずれも4分半前後と現代では比較的ボリューミーだが、加速するビートに呼応して中盤で爆発する3rd『銃声への応答』を筆頭に、展開も豊かで息を呑むばかりだ。〈幸せは何分割されて 私に与えられているのだろう〉(1st『憧憬観測地点』)、〈街灯の隙間に覗く僅かな星が 都会で暮らす僕の混濁を洗い流す〉(2nd『星』)と、自らの灰がかかった卑近な生活と回転する季節や自然の壮大さを対比させるパンチラインも盛りだくさん。
どうか、ここじゃないどこかへ連れ出してくれ。漠然とした不安を一緒に抱えてくれるバンドがまたひとつ、ここに現れた。
Baby Canta
中毒者続出! 才能が輝き始めたのを見逃せない
選・宮本デン
ラジオでその歌声を聴いた瞬間に中毒者となり、あらゆるストリーミングサービスを探し回る人が続出したBaby Canta(ベビーカンタ)。
2024年10月16日にリリースした『ビビってバビってブー』は1st SingleながらYouTubeにて35万回再生を達成しており、今筆者が最も注目しているアーティストである。
実は彼のこの曲は、リリースよりも1年以上前にたまたまYouTubeで見つけた動画で聴いていた。
聴いた瞬間に、まだまだ粗削りだがいつか才能が爆発的に開花すると直感した。グルーヴ感あふれるメロディと、圧倒的な歌唱力を感じさせる歌声が、多くの人の耳に届いてほしいと強く思ったのだ。そして現在、あのときの曲がブラッシュアップされて多くの人を魅了していると思うと何とも言えない喜びが込み上げてくる。
昨今巷でバズっている音楽に比べると、Baby Cantaの音楽は非常にシンプルに作られていると感じる。しかし、だからこそ音楽へ高いアンテナを張っている人間には、純粋に響く音楽なのだろう。無駄がなくシンプルで、聴いているだけで元気が出る音楽…彼の存在そのものが、現在の音楽シーンでは貴重なのではないだろうか。
Baby Cantaとして正式にリリースしていない曲が他にもまだあるため、今後それらの曲のリリースも、まだ世に出ていない曲のリリースも楽しみしている。この才能が、どのような音楽を生み出していくのか、これからも注目していきたい。
suzunaokada
晴れた冬の日のような、ほの昏く温かい歌声と存在感
選・宮本デン
もともとコンテンポラリーを主なジャンルとしたダンサーとして活動していたsuzunaokada。
2024年9月5日にリリースした『センニチコウ』は、そのハスキーな声による歌い出しだけで引き込まれてしまう。
ダンサーというだけあってか表現力が高く、彼女が瞬きをするだけで空気が変わってしまいそうな予感を抱かせる。そこに彼女のハスキーで透明感のある独特な声が響けば、それだけでもう彼女の世界が完成だ。
彼女の歌は、ちょうど今のような寒い冬の季節が似合う。晴れて日が差し込み、空気もカラッとしているけど、どこか寒くてほの昏い。そのほの昏さに寂しさを覚えるときも、逆に温かみを覚えるときも、どちらも変わらず寄り添ってくれる…そんな唯一無二の歌声だ。
彼女のダンサーとしての表現力の凄まじさは、Instagramから見ることができる。
溢れる想いを美しいダンスに変える彼女の力が音楽を作り出すことへ向けられたとき、彼女はまだ誰も見ることができていなかった場所へたどり着くのではないだろうか。
彼女のしっとりとした歌声が、今後どのような表情を見せてくれるのか。また歌×踊の新生アーティストとして、どのような展開をするのか注目していきたい。
yoursヅ
酔いしれるロックバンドのニューカマー!
選・遊津場
2024年1月に始動した“あなたの隣にいる”バンド、yoursヅ(ユアズ)。
『アルコールとあなた』『あなた』の2曲から感じたのは、そら(Vo./Gt.)のボーカルが持つ独特な温度感。それに合う、キーボードも用いた少し気怠げな質感のバンドサウンドで、早々にSNSやサブスクで広がりを見せました。このサウンドはどうやらどんなテンポでもyoursヅにしかないものを生んでいる、ということが他の曲のライブ動画から分かります。
10月には『スーパースター履いて』がEggs楽曲デイリーランキングで1位を獲得。11月には初遠征ツアー。勢いは続いています。
2nd Single『アルコールとあなた』はアルコールという言葉の力も重なって、優しいサウンドなのに冷静さが不思議となくなってフワフワします。まさに酔わす楽曲。2025年はさらに耳を奪われて酔いしれるリスナーが全国に増えること間違いなしです。
という期待があるので、2025年2月19日に渋谷CRAWLで行われる私の企画イベント「YUTSUBABA-N!!」にも出演してもらいます。わりと個性派を揃えているのですが、彼らの恋愛ソングもそこんじょそこらの歌モノに比べたら異質なので、問題なくランデブーできるでしょう。
至福ぽんちょ
SNSを超えてライブで魅せる1年になる予感!
選・遊津場
名古屋発19歳スリーピースバンド。この記事を書いているのは2024年12月初旬なのですが、既にTikTokのフォロワー数は10,000人超え、インスタグラムも10,000人目前。名古屋に現れた新星が今、若者の支持を集めています。
りおん(Vo./Ba.)の真っ直ぐな天然物のボーカルは、たいち(Gt./Cho.)の描く世界観をより強く伝えます。『朝が来るまで』なら明日を迎えることの無力感、『サヨナラ』なら一歩踏み出す勇気が湧きます。サブスク配信されているのは現在この2曲ですが、インスタのリール動画などを見ると、気になる他の曲もたくさん。新たなリリースに向けて動いてくれている様子があり、2025年はさらに楽しませてくれるはずです。
ライブもコツコツ重ねており、名の知れたライブバンドとも共演しています。尊敬するバンドは同郷の04 Limited Sazabysとのことですし、名古屋の同年代にも良いバンドが増えていますし、まぁ名古屋のバンドが「SNSで話題」だけで済ましはしないでしょう。りおんさんは運転免許も取れたとのことなので、関西初ライブも期待しております!
志見祥
伸ばした手の先にあるもの
選・望月柚花
この人の音楽を聴くたびに泣きたくなるのはどうしてだろう。ひとつひとつの音がやわらかく耳に届き、優しく降る雨のように心にすっとしみこんでいく。
志見祥(しみしょう)はミステリアスなアーティストだ。web上に本人のプロフィールなどの情報があまりなく、わかっているのはコンスタントに楽曲の制作・リリースを続けていること、オイルパステルを使用した絵を描いていること、この2点だ。それ以外のことはほとんど語られず、全体的に謎に包まれている。
今回注目の曲として挙げる『Siritai』は、志見祥の最新リリースシングル『Time』に収録されている楽曲だ。このシングルは3つの楽曲で構成されており、素朴でありながらどこか抜け感のあるアートワークが印象に残る。
自分について知りたいし、私たちの生きるこの世界について知りたい。もっとずっと遠くにある見えないものについて知りたい。
「知りたい」という気持ちは、これまで見てなかった新しい世界を見せてくれるものだが、それと同時に自分や誰かを傷つけるものでもある。でも、それでもここで生きている限り、私たちは自分の奥底から湧き出る「知りたい」を消すことはできない。
薄い膜を一枚ずつ剥がすように、幾重にも重なったレースのカーテンをそっと開けるように、手を伸ばしていく。その先にあるものに目を凝らす。そこにあるのは未だ見ぬ美しいものかもしれないし、自分や誰かを傷つける禍であるかもしれない。しかしそこにあるものが何であろうと、私たちは「知りたい」から手を伸ばす。そういうふうにできている。
HALVES
存在を確かめるように歌う
選・望月柚花
厭世的であることは悪いことだろうか。特に望んだわけではないのに勝手に生まれてしまったこの場所で、憂いや虚無、無力さや孤独という感情を持たず、表に出さず、屈託なく笑えるような人間でいなくてはいけないのだろうか。
HALVES(ハーブス)は双子の兄弟で活動している音楽ユニットだ。弟・りょうまが歌い、兄・みらいがアートワーク全般を担当している。キャッチーなメロディーと文学的な歌詞が強く印象に残る、今注目を集めている新世代のアーティストである。
HALVESの楽曲を聴くと、どういうわけだか渋谷の街の至る所に貼られた様々なステッカーや壁面に描かれたグラフィティがイメージとして浮かぶ。そこには誰かの明確な意思表示があり、ひとつひとつに言葉で表すのでは追いつかない感情が溢れている。
今回紹介する楽曲『海底宇宙』にもそんな印象を受けた。
自分がここに存在すること。その理由への切実な問い。自分が自分であるという明確な証がほしいということ。それでいて、答えを与えられることは決してないと知っていること。
彼らの音楽に漂っているのは、世界への絶望、虚しさ、静かな孤独。しかしそれでも攻撃的ではなく、聴き手をやさしく包み込むような性質を失わないのは、寄り添うような感情の共有があるからだ。
「わかる」を共有するだけで救われることがある。そしてそれは、この先の長い道を歩いていくための大きな力になる。HALVESは、そんな力をもらえるような曲を作り続ける貴重なアーティストだと感じている。
どうめき
音楽シーンの天使が、今、舞い降りる
選・OHATA
MV開始15秒の衝撃、楽曲名の『天使予報』から抱いていた想像は見事に打ち砕かれた。イントロの00年代を彷彿とさせる勢いあるメロディはどこか懐かしさを感じさせ、「天使」という言葉のままにこの楽曲の尊さを高めている。
元来VOCALOIDを使用したアーティストだったどうめきだが、バンド形態に転じてから初のEPに収録されているのが『天使予報』だ。
本曲は楽曲が進むにつれ解像度が高くなっていく歌詞が印象的で、〈チャンネルを君に合わせ 歌っている〉という1小節は、ボーカルがVOCALOIDから実在の少女になったバンドの経緯を知るとより言葉の深みが増す。そこに平成味あるサウンドが加わり退廃的な美しさが生まれ、唯一無二の世界観を創造している。
初のVOCALOIDが発売されてから早20年以上の月日が経過したが、「ボカロ文化」を令和の現在にも新鮮な形で取り入れつつ、「オルタナティブ」「サブカル」など様々な歴代の音楽シーンの特徴も捉えているところが、どうめきの特筆すべき点である。
YOASOBIやヨルシカなどボカロP出身で活躍するアーティストも多い昨今、今後の動向がとても楽しみなアーティストだ。
揺れるは幽霊
焦燥感の中にある透明が心を揺らす
選・OHATA
『鯨骨群衆』を初めて聴いたとき、地元・東北で深夜から夜明けにかけ溺れるように音楽を聴いていたときのことを、ふと、思い出した。
2023年に結成し2024年に本格始動した岡山発の4人組バンド・揺れるは幽霊、自身初のMVとともにリリースされた本曲は佐古(Vo./Gt.)の囁くような歌唱で始まる。そこにだんだんと音が重なり、聴いている者を包んでいく。MVでは海を背景に演奏シーンが撮影されていて、映像の美麗さに思わず目を奪われてしまった。
シューゲイザーという言葉が相応しい本バンドは、轟音の中に綺羅綺羅と輝く透明感があるのが魅力で、苛立っていた心も彼らの楽曲を聴くと自然と落ち着いていくから不思議だ。まるで、マイナスイオンのような音楽たち。
メンバーは現在も岡山に在住しており、地元のローカル音楽シーンを盛り上げるため精力的に活動している。その気概に私は心を動かされたと同時に、音楽を鳴らす・音楽を愛するのに都心だって地方だってなんら関係ないということに改めて気付かされた。
岡山県で生まれた音楽が貴方の街まで届きますよう。揺れるは幽霊の音楽がもっともっと多くの人々に聴かれることを祈っている。
Fat Dog
ベッドルームから脱走したサウス・ロンドンの狂犬
選・三橋温子
2023年、ロンドンの名門インディーズレーベル「ドミノ・レコーズ」から“狂犬バンド”がデビューした。
彼らのカオティックなデビュー曲『King of the Slugs』を、2023年掲載の【ヂラフアワード2023】(各ライターが年間マイベスト曲を選ぶ企画)で選曲したが、当時から待ちわびていた来日ライブがついに恵比寿LIQUIDROOMで実現。生のギグを体感したことで“推し度”がさらに増したため、本企画でもあらためて紹介したい。
Fat Dog(ファット・ドッグ)の音楽にジャンルという概念は存在しない。Rolling Stone Japanのインタビューでジョー・ラヴ(Vo./Gt.)は「エレクトリック・ロック」というワードを出しているが、テクノやロックンロールやパンク、ときにクレズマーやゴシックメタル的要素も感じとれる、“めちゃくちゃカオスなんだけどなぜかポップ”な楽曲群がクセになる。
ライブもカオスでポップ。モッシュやポゴ、ダイブがやまないのはもちろん、ジョーやクリス・ヒューズ(Key./Syn.)のフロア乱入時にはオーディエンスのカルト的な合唱やダンスが繰り広げられる。地元ロンドンのライブ映像に比べればLIQUIDROOMはやや穏やかだったかもしれないが、それでもフロアは終始踊りつづけ、ダイバーや誰かがかぶっていた犬のゴムマスクが頭上を飛び交っていた。
彼らのバイオでおもしろいと感じたのは、もともとはコロナ禍のロックダウン中にジョーが自室で制作した音楽からスタートしているという点。ポストパンクバンド出身の彼がライブを見据えていたのは必然ともいえるが、ひとりの脳内から生み出されたベッドルームミュージックがライブで支持を得て、いまや5人のライブバンドとして世界へ飛び立とうとしている——。その様は、デジタル時代を生きるライブフリークのわたしには非常に勇ましく感じられる。
近い将来、ぜひともフジロックで観たい。期待を込めて……WOOF WOOF WOOF!
奏人心
3秒でライブハウスへ飛べる合法的突風サウンド
選・三橋温子
楽曲を聴いたときに「好き」か「好きじゃない」かを判断する基準は三者三様だと思うが、わたしの場合はコード感や曲展開もさることながら、「ライブシーンが浮かぶかどうか」がひとつの基準になっている気がする。
福岡で活動する19歳のスリーピースロックバンド、奏人心(そうとしん)。彼らのインディーデビュー曲『昼でも星は光って』はまさにそうだった。しかもそのスピードが半端なくて、なんと開始3秒。スポーツの応援手拍子のようなドラムに鋭いギターが重なったその瞬間、わたしはライブハウスにいた。爆音と熱気が満ち満ちた小さなライブハウスに。
2000年前後の日本のオルタナシーンを彷彿とさせつつ、現代のティーンならではのみずみずしさや繊細さも内包する奏人心の音楽。音源を爆音で聴くのもいいが、デジタルサウンドから横溢する彼らのエネルギーは、いますぐ福岡のライブハウスへ飛んで生音を浴びたい衝動を増進させる。そのインタラクティブな感じが「好き」を決定づけるのだと思う。
現在、少壮気鋭のライブバンドとして日々ステージに立ちつづけている3人。2025年は神戸のサーキット『ROCK’N’ROLL CIRCUS 2025』で幕を開ける。「東京でも観たいな」「新曲も聴きたいな」などと気持ちが逸ってしまうのがファン心理だが、彼らにはトレンドや常識に左右されず、自らの音楽への衝動にのみ従って自由に暴れてほしいとも強く思う。そのほかのもろもろは大人たちにまかせて。
突風のごとく現れた若きバンドは、気を抜いていたらあっという間に巨大サイクロンとなってロックシーンを席巻するだろう。まずは2025年、インディーデビュー1年目の彼らをどこかのライブハウスで目に焼きつけたい。
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