【Aporath】不条理への怒りと悲哀、痛切な祈りを激情の咆哮に込めて──“生き辛さ”に抗う5人組ラウドバンド

曽我美 なつめ

曽我美 なつめ

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東京都心部では渋谷や新宿、下北沢、高円寺といったエリアによって盛んな音楽、人気のバンドの系統が少しずつ違う。ロックという音楽ジャンルひとつ取っても途方もない多彩さがあるが、それは全国各地の地方都市でも同じことが言える。

筆者は四国・愛媛のライブハウスシーンを長年近しい所から眺めているが、傾向としてはポップなサウンドよりややハードな音楽性のものが昔から一定の支持を得ている印象だ。メロコア、パンク、オルタナ、ラウド。そういった音楽性を武器に活動する愛媛・松山のバンドのひとつが、2023年より本格始動したAporath(アポラス)である。

アフターコロナに産声を上げ、地元を拠点に着々と鎬を削ってきた彼ら。リリース・ライブを順調に重ね、今年2025年はいよいよ県外進出にも本格的に乗り出すという。今回はそんな躍進前夜の彼らに取材を実施。バンドのメッセージ性や今後の展望など、さまざまな角度から彼ら自身の生の言葉を聞かせてもらった。


荒々しく激情的なステージと身近な素顔の二面性もバンドの魅力に
『Empty Vessels』
Aporath

ju(ゆー -Vo.)、mikun(みーくん -Gt./Cho.)、Maiko(まいこ -Key./Vo.)は大学生の頃のバンドメイトでもあり、一度解散を経て約4年後にjuとmikunの間で再びバンド結成の話が持ち上がりました。そこに当時大学生でベースの腕が評判だったbucci(ぶっち -Ba.)を誘い、2022年11月に3人でバンドを結成。約3ヶ月の制作期間を経て、2023年の春頃に元ZACKSTANCHのSary(さりー -Dr.)をサポートドラムに迎えライブ活動を開始しました。

その後、初期のライブを観に来ていたMaikoが「また一緒にやりたい」と言ってくれたことでメンバーに加わり、さらに2024年12月にはSaryが正式メンバーとなって現体制に。1年目は県内中心の活動でしたが、2年目以降は県外にも足を伸ばし、今後さらに県外でも精力的に活動する予定です

こうした経緯を経て現在の5人体制となった彼ら。ボーカルのjuを筆頭に、そのバックボーンにはどのような音楽的ルーツが横たわっているのか。

バンドは2000〜2010年代のScreamoやPost-Hardcore、Metalcore、Deathcoreなどの影響を強く受けています。ただメンバーそれぞれの音楽的嗜好は非常に多彩で、POPやAlternative Rock、V系、Electronicaなど幅広くインスピレーションを得ています。そこから自分たちが心惹かれた要素を選び取り、独自のサウンドとして昇華させているイメージですね

音楽性としてひとつの軸を確立しながらも、多彩なジャンルの良さを柔軟に取り入れるのは、良い意味で“令和の時代のバンド”らしい彼らの強みだろう。彼らの時代に即した活動形態は、こんな所にも表れている。

『あぽラジ』

YouTubeでは毎週木曜日に、メンバーによるWebラジオ『あぽラジ』を配信しています。元々自分たちもさまざまなバンドの1リスナーでしたが、特にインディーズ・マイナーバンドはメディア露出も少なく、ライブ以外でその人柄や雰囲気に触れられる機会が少ないことをもどかしく感じていました。

地元ではYouTubeなどを活用して発信するバンドはまだ少ない印象があり、僕ら自身の活動の記録を残しつつ、その成長を見守ってもらえるようなコンテンツが作れたら面白いと思い『あぽラジ』を始めたんです。ライブだけでは伝えきれない想いやメンバーの素顔を届けたり、ゲストとのトークを通じてバンド同士の繋がりを深めたり、愛媛のシーンを盛り上げるきっかけの一つになれたら嬉しいですね

生きることへの痛みを抱える人々に寄り添いながら、いざ外の世界へ

ステージ外での自分たちの素顔や、バンド活動に込めた思いの発信にも積極的なAporath。では彼らは自身の音楽に、一体どんなメッセージや信念を込めているのか。ボーカルのjuはこう語る。

哲学的難題を示す“Aporia”とそれらへの怒りを示す“Wrath”に由来するバンド名の通り、楽曲には世の中の矛盾や不条理への警鐘、抑圧された感情や痛みに対する代弁の姿勢が色濃く表れています。「弱者に寄り添う」というと少し烏滸がましいですが、自身もうまく生きられない人間だからこそ、同じ痛みを持つ人々に少しでも寄り添えたら、と。

そのためバンドの歌詞は「分かりやすさ」よりも、「近しい経験をした人の心に深く刺さること」を重視しています。読み手の感性に委ねる比喩や、やや難解な表現もあえて用いることで、言葉に重みが宿ると信じて妥協なく推敲を重ねています。初期は英詞が中心でしたが、より情緒に訴える表現を求めて、今は日本語での歌詞が増えましたね。

サウンド面はライブの展開や観客の体感を意識しつつ、ジャンルのステレオタイプに縛られすぎないよう留意しています。メンバーの個性と強みを最大限活かすことも重要な指針であり、その結果一言で括れない音楽性になっていますが、それもAporathらしさだと自負しています

一聴してバンドの音像のみを切り取れば、ラウドバンドの象徴たるシャウトや荒々しさ、攻撃性を色濃く感じるサウンド。それらは多様な不条理への反骨を表すと同時に、内に込めた生身の人間の痛々しい悲哀や傷を覆い隠す鎧なのかもしれない。時折曲中に垣間見える情緒的な旋律は、そんな彼らの繊細で切なる祈りの象徴でもあるのだろうか。

『House of Cards』
Aporath


核とする命題を抱えつつ、Aporathは今まさにバンド一丸で歩みを進めている。その象徴たる出来事のひとつが、今年5月に松山SALONKITTYで開催された「4th single “Empty Vessels” Release GREETING TOUR FINAL」だ。

音源リリースに伴い各地を回り、ツアーの締めとして地元で自主企画を開催する流れは、Aporathにとって初の挑戦でした。楽しいだけでなく、数多くの気づきと学びに満ちた経験でしたよ。

音源による表現の強みを再認識すると同時に、ライブでしか体現できないエネルギーや臨場感の価値を改めて実感しました。自分たちの技量や姿勢を客観的に見つめ直す機会にもなり、何より対バンの皆さんやリスナーとの縁がいかに運命的で尊いものかを強く感じて。バンドの魅力を届けたいと思えば思うほど、むしろこちらがその意義を深く実感させられるような、かけがえのない時間でしたね


今夏で本格的な始動から3年目を迎えるAporath。最後に今後の展望をjuに訊くと、このような頼もしい答えが返ってきた。

これまでは「次世代のラウドシーンを創り独創性を担い続ける」というビジョンの基盤を築くため、地元を拠点に試行錯誤しつつ自分たちならではの色を模索してきました。今後はさらに多くの方に存在を知ってもらえるよう県外でのライブ活動を本格化させ、それに見合うスキルや表現力を磨いていきたいです。多様なバンドの在り方に触れること自体が、僕らの成長にも繋がると信じていますから。

加えてMVやアルバム制作、フェス出演などの露出も強化し、より大勢の人にAporathを見つけてもらえるアプローチも模索したいですね

(L→R)Sary、ju、Maiko、mikun、bucci

MESSAGE

興味を持っていただき、本当にありがとうございます。
あなたとのこの出会いにも、きっと何か意味があるのだと思っています。
もし心が折れそうな夜や、非日常にふと触れたくなる瞬間があれば、僕たちの音楽でそっと寄り添えたら嬉しいです。それが、あなたに出会えたことへのささやかな恩返しです。
どうか、この先のあなたの歩みが、少しでも明るくあたたかなものとなりますように。

 Aporath

(取材/文・曽我美なつめ)


PROFILE

Aporath(アポラス)

「次世代のラウドシーンを創り、独創性を担い続ける」
2022年11月、愛媛県松山市にて結成。約3ヶ月の制作期間を経て、2023年3月より本格始動。そのバンド名は、相反する命題が共存することへの困惑を表す哲学用語「Aporia」と、それに対する怒り「Wrath」を掛け合わせたことに由来。Screamo / Post-Hardcore / Metalcore / Deathcore といった叙情的かつ激しいサウンドを軸に、EDMやポエトリーリーディングなど多彩な要素を融合。混沌の中から生まれる、モダンで唯一無二の世界を奏でる。

正解の見えない現代。誰が決めたわけでもない、”かくあるべき”という幻想が押し付けられ、そこから外れた者は嘲笑と排斥の対象となる。匿名性に隠れて歪んだ悪意が誰かを追い詰め、偏見の中央値に過ぎない”普通”が、無自覚のまま暴力を生む。それでも、人は倫理の名のもとに生きることを強いられ、抑圧された感情に蓋をする。

「そんな世界に警鐘を鳴らし、アウトサイダーの痛みを代弁する存在でありたい」
Vocal juが経験した苦悩、後悔、葛藤を糧に、「悲しみに喘ぐ者」「普通であることに苦しむ者」に寄り添う音楽を目指す。

激しさの中で、どこか悲しく、どこか優しい響きを。 静と動の狭間で揺れ動く旋律が、あなたの苦しみに寄り添い、抜け出すきっかけになれたなら――それ以上の願いはない。

メンバー

ju《ゆー》(Vocal / 作詞 / 作曲)
mikun《みーくん》(Guitar / Chorus / 作曲 / 編曲 / デザイン)
Maiko《まいこ》(Keyboard / Vocal)
bucci《ぶっち》(Bass)
Sary《さりー》(Drums)

活動開始

2022年

主な活動拠点

愛媛県松山市

HP / SNS

Official Website
X @Aporath_JP
Instagram @aporath_jp
TikTok @aporath_jp
YouTube @Aporath

LIVE

・6/28 @松山SALONKITTY
・7/18 自主企画@Bar Caezar 孤独との別れ -僕等もう友達ですよね?-
・7/19 @岡山某所
・8/1 @松山某所
・8/14 @大阪某所

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