【Aporath】1st Full Album『NOTICE』アルバムライナーノーツ|バンドを襲った激動──その先に掴んだ前進と不変の命題

曽我美 なつめ

曽我美 なつめ

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四国・愛媛を拠点に活動する5人組バンド・Aporath(アポラス)が、今年7月にバンド初のフルアルバム『NOTICE』をリリースした。

地元松山での地固めを経て、着々と県外進出を叶えた昨年2025年。だがバンドは2026年の春に大幅な活動体制の変更を余儀なくされるという、激動のシーズンを経て今に至っている。

一番の大きな変化は、バンドの顔とも呼ぶべきメインボーカルの交代だろう。一身上の都合によりこれまでフロントを務めていたjuから、新メンバーとして女性ボーカル・Lioを起用。だがバンドと彼の関わりが断絶されたわけではなく、引き続きjuもコンポーザーとしてAporathの制作を裏から支える役割を担い続けている。

おそらく当時、誰よりも決断に苦悩したのはメンバー自身のはず。しかし結果として、この変化はバンドにとっても大きな前進になった。今夏リリースされた渾身作が、なによりもそれを証明している。

活動開始からまもなく丸4年。Aporathというバンドはこれまでどんな道程を歩み、どんな場所へと辿り着いたのか。本記事では彼らの軌跡を束ねた1st Full Album『NOTICE』を、本人たちのコメントも交えたライナーノーツ形式でご紹介。作品全体のレビューのみならず、バンド側より選出された必聴ナンバーの聴き所もあわせてピックアップしている。

ぜひ彼らの大きな変貌を、そして変わらぬ音像の本質を、その目と耳で確かめて欲しい。

1st Full Album『NOTICE』

変化の中で浮き彫りとなった不動のメッセージ

日常から非日常へ、そしてまた日常へと還るアルバム。改めてバンドのコンポーザーへ就任したjuは、月1で実施するAporathのYouTube配信で今作についてそう言及する。

インストゥルメンタル形式のイントロダクションに誘われ、彼らの奏でる美しくも猛々しい轟音を一身に浴びたのち、幽玄な響きを帯びたアウトロダクションにそっと背中を押されるように現世へと戻って来る。サブスクリプション全盛期の現代ではやや希薄になりつつある、「アルバム単位で音楽を聴く」リスナー体験を重視した構成も、本作の大きな魅力のひとつと言える。

同時に本アルバムから明瞭に受け取れるのは、バンドの顔であるボーカルを交代してなお、揺るがぬ本質を発信するAporathの強固な音楽性だ。

歌声という大きな変化があるからこそ、その反面彼らの不動のメッセージ──大小を問わず痛みや葛藤、慟哭を抱える人々への普遍的な寄り添い──がより如実に浮き彫りとなった今作。変わらぬものを守り続けるために、大いなる激動をも受け入れた。そんなバンドの切なる決意もどこか滲み出る、まさに渾身の1枚だ。

「叫びを抱えた者たちへ」──我々はこの言葉を掲げて活動しています。

波風を立てないために、本音を飲み込んだ人。自分を守るために、誰かを傷付けた人。声を上げる元気も勇気も、もう残っていない人。そして、そんな誰かに怒りを覚える人。今作『NOTICE』は、そんな方々に向けて作りました。

自分を取り巻くものがどんな形をしているかは、環境と当人によってまるで違います。だからこそ、そこから生まれる「気づき」も、正解も、抱えた人の数だけあっていい。我々にできるのは、あくまで我々の感性でこの世界を描写することだけです。

その描写に触れたあなたの内側の「叫び」──そして、その背後に隠れた「気づき」を引き出せた時、当アルバムの意義は果たされると考えております。

「気づき」のきっかけは、自己だけでなく、隣人や、もっと広い世界にも潜んでいます。

残念ながら、個人が抱えた認知は、時にたやすく歪みます。背景情報一つで見え方が全く変わるこの世界に、絶対的な正解はそう多くありません。その中で「気づき」を増やすことは、容易ではないでしょう。

だからこそ我々は、これらを劇的な楽曲の形で描写することを選びました。音楽であれば何度でも触れ直すことができ、そのたびにリスナー自身の尺度で少しずつ落とし込んでいけると考えたからです。そして疲れたときには、一度離れて、また戻ってくることもできる。

大事なのは我々の発信をそのまま受け止めるのではなく、そこにあなた自身の考えを立ててもらうこと。あなたなりのアンサーができたとき、『NOTICE』は完成します。

今作は我々にとっても、体制の移行に伴う新しい試みの連続でした。だからこそ、切実さと感情がそのまま息づく、ライブ感のあるアルバムに仕上げられたのだと思います。ひとときの日常と非日常を切り取ったこのアルバムが、あなたの日々に寄り添えることを祈っています。(ju)
Lio(Aporath Vo.)

Lio(Vo.)

2.「Panopticon」

誰しもが生きる監獄で問われる信念

アルバムの実質的なオープニングナンバーとなる本曲。一聴してまずはなにより、新ボーカル・Lioのキッチュかつ幻惑的な歌声に強烈なインパクトを感じたリスナーも多いことだろう。

重厚かつ肉厚なメタルコアサウンドの中から、突如極彩色の大輪の華が鮮やかに咲き誇るかのように響く彼女の歌声は存在感も抜群。従来のAporathのサウンドと新たなバンドの魅力の見事な融合を印象づける楽曲として、まさに本アルバムの入口に相応しい1曲となっている。

曲題「Panopticon」とは、中央の監視塔から全独房を見渡せる円形設計の監獄を表す言葉。一つの事実に対して付随する多面的な立場の視点や、時としてそれが同調圧力やしがらみのように機能する様として、juはこの言葉を選んだ。

人々が日々生きる中で巻き起こるさまざまな人間模様、そこで生まれる葛藤と懊悩。人間が社会的な生き物である以上逃れられない監獄の中で、自身は最後に何を信じ、何を正義とするか。そんな終わりのない問いが、本曲では描かれている。

「パノプティコン」とは、中央の監視塔からすべての囚人を見渡せる円形監獄の構想──転じて、互いが互いを見張り合う社会構造の比喩のこと。

この曲で描いたのは、「愛」や「信頼」の名の下に結ばれた共同体が、いつの間にか本音を隠し顔色を窺い続ける檻へと変わっていく光景です。

フィクションのように見えるそれは、しかして現実にも紛れています。

例えば、コミュニティに蔓延る特殊な価値観や風習が、次第に力を増し、いつしか「普通」になる。

例えば、画面の向こうにそれが映し出されれば、正しさを謳う声が響き、賛同する者と冷たく嗤う者が、顔を隠しながら石を投げ合う。

どちらも、見たことがあるのではないでしょうか。

檻で守られていたのか、閉じ込められていたのか。
異を唱えることは悪か、身を守り同調することは悪か。
自分の憤りの正体とは? あの行動の意味とは?

曲中で答えを示すことはありません。絶対的な正解を定める難しさと、先入観の危うさを、そこに仄めかしました。

誰が最初の石を投げたのか。この檻を作ったのは誰なのか。我々は皆潔白なのか、それとも皆有罪なのか──終わりに残る問いをどう引き受けるかは、あなたに委ねたいと思います。(ju)
Lio(Aporath Vo.)

7.「Rebirth」

受容・赦しの音楽へとより肉薄する歌

バンド新シーズン幕開けの号砲として、新体制発表ライブにて解禁された6thデジタルシングル。本作にはアルバム版へのアレンジを施しての収録となる。

同じく一度シングルリリースされている前曲「Paradise Lost」とは当初より連続性のある楽曲として制作されていたが、従来はそれぞれの曲がシングルとして独立していたため、シームレスに繋がる2曲の流れを楽しめるのはアルバムならではの聴き所のひとつとも言えるだろう。

タイトルの通り、生まれ変わったバンドの象徴として据えられた本曲には、それでも揺らぐことのないAporathの、コンポーザー・juの定義する“傷への寄り添い”がメッセージとして描かれる。否定も肯定もなく、ただ傍にいる。悩みも苦しみもただあるがままに、その存在を受け入れる。それは言うなれば受容、あるいは赦しを本質とする音楽とでも言うべきか。

juが新たなメンバーへ託したバンドの命題は、彼女の豊かな響きの歌声によって、よりそのメッセージ性に真の意味で肉薄したものへと昇華したようにも感じられる。

アルバムの冒頭で我々が呼びかけた、「波風を立てないために、本音を飲み込んだ人」──この曲は、そんな方を想って書いた曲です。

場を乱さないように、自分の意見を飲み込む。その振る舞いは、往々にして「大人の対応」と呼ばれます。

しかし現実では、どれだけ理路整然とした考えも、ただ声が大きいだけの言葉に掻き消されてしまうことがある。

浅はかな言葉が、思慮深い言葉に勝ってしまう──そんな理不尽がまかり通っています。泣き寝入りすれば、あなたの責任だと片付けられてしまう。

それでもこの曲は、「声を上げろ」と強要はしません。歌の中で繰り返されるのは、「逃げても、踏み出しても、世界はあなたを咎めない」という一節と、「何を想うの?」「何を望むの?」という問いかけだけ。無慈悲にも、決断をしなくてはならないのはあなた自身だからです。

ただ、もし本当に伝えたいことがあるのなら──たとえ嫌われても、目先の不利益を被るとしても、勇気を出すことで見えてくる世界があるはずです。その先を望むことを、我々は決して否定しません。

確かなものなど何もないこの世界で、それでも進むことを選ぶあなたを、この曲と共に送り出せたなら幸いです。(ju)

9.「Chalk」

バンドの繊細さをより解像度高いものに

前曲「Hypnos」を呼び水として展開される「Chalk」は、MaikoのピアノとLioによるボーカルを主として構成された今作随一のバラード曲だ。

楽曲自体は元々バンド初期から存在していたが、アルバム収録に際して体制変更に伴うアレンジが大幅に加えられた点もトピックのひとつ。Aporathというバンドの持つ表現の振れ幅や深度を特に如実に感じられるナンバーでもあり、上記二人のアコースティックデュオ名義・Anamnesisでの演奏も非常に映える1曲へと生まれ変わっている。

アルバム単位での総括のみならず、曲単体でも強く印象に残るのはやはり新ボーカル・Lioの表現力の豊かさだろう。彼女の伸びやかでありつつもどこか哀愁を孕む艶のある歌声によって、従来よりバンドが音像の背後に持っていた純粋無垢かつナイーブな世界観が、より解像度高く聴き手に届くようになった。

自らの手元にある、綺麗で美しい精巧なものが儚く崩れる悲哀を落とし込んだ本曲。その繊細さや脆さ、刹那性の側面が、まさに彼女の歌によってはっきりとした輪郭を伴った。そんな印象だ。

記憶を失い、白い部屋で眠る二人。仮初の穏やかさの中で、失くしたものにも、刻まれた傷にも気づけないまま、幸せな日々は少しずつズレていく──この曲が描くのは、そんな静かで残酷な情景です。

この二人が何者なのかは、曲中で示していません。恋人かもしれないし、家族かもしれないし、長い付き合いの友人かもしれない。あなたの瞼に浮かぶ誰かの顔で、この曲を完成させてください。

穏やかな日常の中には、目を背けていることにすら気づけない──誰かに隠され、押し付けられた真実が眠っていることがあります。そしてそれに気づいてしまう瞬間は、きっと現実にも在る。単なる夢物語ではないのです。

夢はいつか覚める。そのとき、独りではなく、誰かと手を繋いでいられたなら。この曲が、傷ごと進んでいくための小さな標になれたなら、と思います。(ju)
Lio(Vo.)とMaiko(Pf.)によるアコースティックデュオ、Anamnesis

Lio(Vo.)とMaiko(Pf.)によるアコースティックデュオ、Anamnesis

10.「lantana(ReMaster)」

激動の受容を経て、明確な前進へ

メロディアスで郷愁を帯びたイントロのギターリフ、そして終盤の余韻をたっぷりと含んだ音の残像も耳に残る、バンドの現在を象徴する1曲、「lantana」。

今回は過去にシングルリリースされたju歌唱版からLio歌唱版へ大きくリアレンジを施してのアルバム収録となる。おそらくリスナーにとっては、ある種まったく異なるバージョンの聴き比べを楽しめる点も本曲の大きなバリューになったと言えるだろう。

アルバム版とシングル版の差異について言及するならば、荒々しいスクリーモを用いた歌唱が減った一方で、Lioの情感の籠もったポエトリーパートが新たな聴き所となったようにも感じられる。だがその一方で強烈に感じるのは、Aporathにとって今回のボーカリスト変更は単純に「バンドの命題を発信するjuがLioという新たな武器を手に入れた」事象にすぎない、ということだ。

今回彼らを襲った激動は転じて、バンド自身が発するメッセージにより深みと説得力を持たせる大きな材料ともなったはず。きっとこれからも彼らは己を取り巻くすべての事象をタフに飲み込み、歩みを進める糧へと変えていくことだろう。

ランタナは、咲き進むごとに花の色を変えていくことから、「心変わり」という花言葉を持つ花です。この曲では、その名を「もう戻せない日々」──喪失から続く時間に重ねました。

劇的な再会も、綺麗な忘却も、ここにはありません。失意に沈む自らと向き合う瞬間だけが、そこにあります。

痛みを伴いながら、それでも新しい何かを見つけてゆく。元に戻ったようで、何かが違う日々の中、変わってしまったものを抱きしめていく。その過程には、きっとあなただけの気づきが眠っているはずです。

失ったものを無かったことにするのではなく、「見初めた想いはきっと間違いではなかった」と言い聞かせ、「さよなら」を捧げること。それが、この曲なりの痛みとの向き合い方です。

『NOTICE』の中では、最も静かで、最も個人的な「気づき」を担うこの1曲。是非あなたの世界と照らし合わせてみてください。(ju)
Aporath

(文・曽我美なつめ)

INFORMATION

RELEASE

Aporath 1st Full Album『NOTICE』

Aporath 1st Full Album
『NOTICE』

リリース日: 2026年7月18日(土) ※配信は8月22日(土)
形態: CD、デジタル配信
収録曲: 全11曲

1. 叫びを抱えた者たちへ / NOTICE
2. Panopticon
3. H/H
4. Kenoma
5. Empty vessels
6. Paradise Lost
7. Rebirth
8. Hypnos
9. Chalk
10. Lantana
11. それでも、日々はまた巡る / Stillness

PROFILE

Aporath アーティスト写真

Aporath(アポラス)

「次世代のラウドシーンを創り、独創性を担い続ける」
2022年11月、愛媛県松山市にて結成。約3ヶ月の制作期間を経て、2023年3月より本格始動。そのバンド名は、相反する命題が共存することへの困惑を表す哲学用語「Aporia」と、それに対する怒り「Wrath」を掛け合わせたことに由来。Screamo / Post-Hardcore / Metalcore / Deathcoreといった叙情的かつ激しいサウンドを軸に、EDMやポエトリーリーディングなど多彩な要素を融合。混沌の中から生まれる、モダンで唯一無二の世界を奏でる。

正解の見えない現代。誰が決めたわけでもない、“かくあるべき”という幻想が押し付けられ、そこから外れた者は嘲笑と排斥の対象となる。匿名性に隠れて歪んだ悪意が誰かを追い詰め、偏見の中央値に過ぎない”普通”が、無自覚のまま暴力を生む。それでも、人は倫理の名のもとに生きることを強いられ、抑圧された感情に蓋をする。

「そんな世界に警鐘を鳴らし、アウトサイダーの痛みを代弁する存在でありたい」
コンポーザー・juが経験した苦悩、後悔、葛藤を糧に、「悲しみに喘ぐ者」「普通であることに苦しむ者」に寄り添う音楽を目指す。

激しさの中で、どこか悲しく、どこか優しい響きを。 静と動の狭間で揺れ動く旋律が、あなたの苦しみに寄り添い、抜け出すきっかけになれたなら――それ以上の願いはない。

Lio《りお》(Vocal)
mikun《みーくん》(Guitar / Chorus / 作曲 / 編曲 / デザイン)
Maiko《まいこ》(Keyboard / Vocal)
bucci《ぶっち》(Bass)
Sary《さりー》(Drums)

Official Website

LIVE

1st Album「NOTICE」
Release TOUR

8/22 福岡graf
9/15 新宿ANTIKNOCK
9/19 上前津 Club Zion
10/2 Hiroshima 4.14
10/23 高松TOONICE
10/29 大阪DROP
11/1 松山SALONKITTY