都内を中心に活動するギターロックバンド・Broken my toybox(ブロークン・マイ・トイボックス)が、2024年11月4日(月・祝)に自主企画ツーマンライブ「箱庭へようこそ〜香らない僕らとオンシジウム〜」を渋谷eggmanにて開催した。
こだわり抜いた視野の広い歌詞と、幅広いギターポップのセンスを活かした楽曲を、時にバンドサウンドという域も超えて届けて着実に集客を伸ばし、7月のワンマンライブも成功させた彼ら。今回はその時の倍ほどのキャパで盟友・iCO(イコ)を迎えてのツーマンライブとなった。
追加販売も含め、見事にSOLD OUTを記録した本公演をレポートする。
iCO
人生の選択の先に、iCOの音楽が響き渡れ
ファンタジックで神秘的なSEと、それを際立たせるピンクの照明に照らされ登場したiCO。そして静寂の中、吉國唯(Vo./Gt.)が1曲目『果実のとりこ』の始まりの1小節を歌い出す。
その歌声はわずか15秒で会場を引き込み、期待感を徐々に上げていくと、「よろしくお願いします!」の一言から天空を切り裂く激流のメロディが! その気流をさらに上昇させていくように、観客のクラップもすぐに巻き起こる。歌詞の世界観も合わさって、広大なフィールドに1歩目を踏み出す勇気を与えてくれるこの楽曲は、日々をコツコツと積み重ねてSOLD OUTという景色に辿り着いた本日の2組のオープニングに相応しい。
その晴れやかなメロディからは打って変わって、焦燥感を煽るダークめのイントロが鳴り出し、2曲目『駄駄』がスタート。先ほど1歩目を踏み出したプレイヤーに“本当にやれんのか?”とシビアさを与えるかのように、ヒロチカ(Dr.)は後方から1曲目以上にクラップを煽り、ケンジ(Support Gt.)、すぎやまほくと(Support Ba.)もフロアに遠慮なく音をぶつけていく。生々しい赤の照明は、決意を持って歩み行く者が荒波の中で負っていく痣のようにも思えた。
ただ、その回復を待つ間など与えずに3曲目『塵と宝石』を畳み掛ける。より躍動感を持って鳴らすステージ上の4人に、フロアも負けじとクラップと拳を浴びせる。このエネルギーの応酬によって、会場の輝きは増していき、吉國の笑顔も弾ける。「ありがとう!」の声のオクターブも上がっていく。
MCに入り、吉國は「ようこそいらっしゃいました!」とオーディエンスを出迎え、感謝を伝える。この素晴らしい景色の感想をケンジに振ると、「今日はBroken my toyboxをぶっ倒すためにきました!」と彼。ちなみにケンジとブロークンのギター高田は瓜二つである。
ブロークンと共にこの日を迎えた喜びに浸りそうでもあった彼らだが、「バンドやっていきます! ついてきてください!」と気合いを入れ直し、拍手が鳴る中『メメ』へ。剛柔・緩急を行き来するサウンドは、会場のクラップもあって初めて完成されるロックファンファーレだ。続いて『烏ら烏ら』。ここまでまだ5曲だが、吉國のボーカルの表現力がすごい。希望や力強さだけでなく、『烏ら烏ら』にも潜む哀愁や悲壮感をも描き出すし、歌声の太さ細さ高さ低さと音域が縦横無尽だ。ケンジとすぎやまも前へ前へ出て演奏し、そのエネルギーをフロアに余すことなく伝えるから、曲終わりには歓声も交えた拍手が起こる。
その満足感の余韻をじっくりと引き継ぐように同期のサウンドが鳴る中、ヒロチカのドラムカウントから始まったのは『ぽろぽろ』。モノクロの景色を徐々に色付けていく展開かと思いきや、サビでは音が消え、懸命に声を絞り出しながら囁くように歌われるこの楽曲に、こちらも感化されて息苦しくなる。ただ2番に入る頃には、それでもと命削りながら歌う吉國の姿にフロアは拳で応えていた。そんな彼女の歌をより一層優しく包み込んで鳴らす演奏も聴き逃せない。
その感動は、ファンからのリクエストも多かったという『椿』に入っても変わらなかった。聴きながらその手を振る者、手を上げて不動の者、噛み締めて聴く者と個々別々で、各々の感情により深く入り込んでいる様子が伝わってくる。この曲はメロディの温かさがニクいのよ。
続くMCでは、「やっとしゃべれるぜ!」とヒロチカタイムへ。『椿』の感想や、この日に至った経緯を話す。春先から話し合い始めたところどんどんバイブスが上がり、6月には開催が決まったそうだ。「iCOを初めて見た人にも楽しんでもらえるように!」と、Broken my toyboxの『Endless』のカバーを1パート披露するシーンも。途中ケンジにマイクを向けるなど、これはもう普通に4人が楽しそうだった。そしてここから繋げたのが、今やiCOの代表曲へと成長した『DAYBREAK IT』。ただでさえ圧倒力のあるiCOのステージングにマリオのスターを与えてしまう無敵の楽曲。〈一生僕がいいから〉と歌われたら、全ての自己否定はブッ壊れる。
最後のMCでは、吉國とヒロチカの上京エピソードが語られた。2人は北海道から上京してきたため、東京に全く友達がいない状況からのスタートだったそうだ。その時に縁があってBroken my toyboxと出会い、「自分たち2組はどこか近しいものがある」と思い合っていたとのこと。
「今日ここに来てくれたことを本当に嬉しく思います。私はたとえ明日あなたが命を絶とうとも、私は絶対にそれを止めません。その選択を否定しません。ただその選択に少しでも後悔する可能性があるならば、その前に私に会ってほしいと思っています。私もiCOもブロークンも、この先しばらくは歌い続けていくと思います。前を向いて歩けとは言いません。ただあなたが『今ここにいること』を教えてあげることはできるので、私達に会いに来てほしいと思います。こんな大事な日に、大事な曲ができることを嬉しく思います。あと2曲よろしくお願いします!」
吉國の言葉に大きな拍手が贈られ、その後披露されたのは『MADE』。〈会いたい人に会いに行こう 変えられるのは その君の意思だけ〉とサビで歌われるこの楽曲は、フロア1人1人の足を自分が本当に行きたい方向に向けてくれたと思う。吉國が地声で「ありがとー!」と伝えると、ヒロチカの力強いドラムのビートが鳴り出し、ラスト『「i」』へ。人生のエンドロールなんて、まだまだ先と思わせるような疾走感のあるサウンドが、向きたい方向に向いたあなたの背中を押す! フロントの3人も全身全霊で感情を爆発させながらステージを所狭しと動き、フロアの奥にいる人の感情まで引っ張り上げて、最高潮のままライブは終了した。
あまりに楽しかったのであろう。来年1/12の新代田FEVERでのワンマン告知を、正規メンバーの吉國とヒロチカが忘れて帰ろうとしてしまい、ケンジが告知するというオマケ付き。
以前Xで私は「ファンタジーRPGのような世界観の楽曲」とiCOを紹介した。実際ライブを見ると、そのスペクタクルさは想像以上。現実での正解のない選択を肯定し、そのあなたの魅力を最大限引き出すチート級の武器装備(楽曲)を何種類も揃えていて、ちょっとゲームの世界にあるとダメかもしれないとさえ思った。でもこの武器屋、現実のライブハウスにあるんです。北海道からやって来た2人と、東京で出会った2人の4人で運営してるんだって。行って、感じて、人生という名のRPGを自信持って生きようぜ。
【Setlist】
1. 果実のとりこ
2. 駄駄
3. 塵と宝石
4. メメ
5. 烏ら烏ら
6. ぽろぽろ
7. 椿
8. Endless(Broken my toyboxカバー)
9. DAYBREAK IT
10. MADE
11.「i」
Broken my toybox
未来に向けて咲き誇る、箱庭の花
ホラーとエレクトロが混じったSEでフロアの期待感と緊張感が増す中、4人が登場。〈桃源郷へようこそ〉と藤井樹(Vo./Gt.)が伸びやかに歌い上げるやいなや、フロアから拳が上がっていき、続くエレクトロなサウンドに合わせてクラップが響き渡る。ほどなくして開放的なロックサウンドが重なり、照明も忙しなくカラフルに点滅し、会場のボルテージを上げていった。
1曲目の『桃源郷へようこそ』で早速“独壇場”を作り上げ、満員のフロアを改めて“オトノナルホウヘ”導いた4人は、「箱庭へようこそ!」とお客さんを祝福。ドラムとベース、ギターまでヘビーな音を出すインストナンバー『Up to』が鳴り響く中、藤井は「盛り上がる準備はできてますでしょうか!?」と会場を煽る。そしてエマージェンシーな赤いサーチライトの中、『メロディーメーカー』へ。よりスリリングに鳴らされる楽曲に、藤井も「こんなもんじゃないでしょう?」と先ほどとは違った声色に。初めはiCOのように晴れやかなスタートを切った感覚を持った人も多かったかもしれないが、全然違うゲームカセットが起動していたことがここでわかっただろう。その歌声には怒りも滲み、ひろぽん(Support Dr.)の激しいドラムもあってヘドバンが起こるほどの激しい演奏に。
ヒールな存在感も増す中、郷間直人(Ba.)の「まだまだいくぞー!」から『スクラップアンドビルド』へ。藤井もギターを持ったことで、バンドのダウナーさとクレイジーさは歯止めが効かなくなる。早口で捲し立て、〈うるさいな 黙って〉とがなるボーカルに、「この箱庭、ヤバいんじゃないか?」と思ったiCOのリスナー(ちゃんズ)もいたはずだ。
ここでMC。高田健太郎(Gt.)が感謝を述べる中、藤井は「iCOは名前短くていいね」「(高田に向かって)先ほども(iCOのステージに)おられました?」ととぼけて笑いを取る。iCOのサポートギターを務めるケンジと瓜二つであることをイジられた高田は、「ケンジも悪くないギターを弾いていた」と相方(?)を称賛した。
藤井が「iCOで疲れてないですよね? まだまだ盛り上がれますか?」「晩ご飯食べてきた?」と問いかけ、『Tasty』がスタート。一転明るい曲調となり、「いけますか?」「もっかいいけます?」と優しくハンズアップを促す藤井に、フロアは柔らかくもしっかりと波打つ。このわずか5曲でもレシピの広さと多さを堪能できただろうが、フルコースはまだ終わらない。
続いては、そのタイトル通り高田の悠然なギターが浮遊感を引き出す『Float』。ステージに立ち込めたスモークが力強い歌声と演奏で晴れ渡っていくその時間は、その場にいる1人1人の心の霧も晴らしただろう。そして一時の沈黙が流れ、可憐なミディアムチューン『椿の唄』へ。その幽かながらも温かで揺れるメロディは強い頼もしさを秘めており、サビではフロアの手が引き寄せられるように伸びていく。「本当の幸せとは何か」を考え続けて確かに育まれた生命の歌に、呼応するように重なるフロアのクラップや合唱。アウトロの情感たっぷりなギターには、花が咲き誇るように拍手が広がっていった。
次の曲に入る前に、藤井はこう前置きした。「元々自分は1人で歌を作っています。誰に聴かれるでもないだろうなと思いながら曲を作っている日々でしたし、バンドを始めてからもその思いは拭えなかった。今日は多くの人に聴いてもらえてこんな幸せなことはないです。そんな『どうせ誰にも聴かれないのかな』と思った時に、自分を励ます時に作った曲です」
そこから披露されたのは『かけがえのないなどない』。よりシンプルに届く歌詞と演奏に、フロアの真っ直ぐな視線が集まる。〈今は僕のそばにいないでよ〉〈僕以外を救ってよ〉〈僕がいなくても変わらない世界が好きだ。〉そんな、前置きとして話された内容と合致するセンシティブながらも嘘のない言葉たちを、今こんなにも多くの人が受け止めてくれている光景を見ると、 “救世主”はきっといつか誰のもとにも現れてくれるのではないかという気持ちになれる。
少ししんみりとした空気になったフロアだが、藤井が「やっぱりiCOって名前は短くていいね」とまたしつこく擦ると、フワッと明るくなった。そして「なんかさー(iCOが)さっきウチらの曲やってたよね? iCOにやられっぱなしじゃあねぇ、ウチらが主催なんでねぇ! 示しがつかないんですけど、皆さん準備はよろしいでしょうか!?」と煽り、お返しとしてiCOの『DAYBREAK IT』のカバーを披露。きっちり盛り上げると、こちらのロックチューンも負けてませんよ、とばかりに自曲『コピーライト』に繋げる。郷間は今日イチの跳躍感を繰り出し、フロアからはシンガロングも響いた。
そしてその熱を落ち着かせるようなギターから『車窓』へ。4人の美しいハミングできっちり全員を乗車させると、右肩上がりに上がっていくビートと間奏での高田のギターソロに、高鳴る心は、あぁもう抗えない。
そして最後のMCへ。藤井はMCに入る前に「楽しんでおりますでしょうか?」と毎回フロアに確認していたが、そのたびに大きくなる拍手。何度も感謝を述べた後、「7月のワンマンの時もありがとうを言いすぎて最後は『嫌いにならないでください』とお願いしてしまいましたが、今日はこれだけ来てくれているから、逆にそれは失礼にあたりますよね。…嫌いにならないでください」と最後まで茶目っ気を見せる。
「今日もいずれ過去になるんですよ。思い返すと楽しいことより、苦しいことや悲しいことのほうがみんなも多いじゃないんですか? でも今日みたいな日を振り返って、あの時があったから今があるんだろうなってことを思えるように、今日をもっともっとみんなで良い日にしたいと思うんですけど、ついてこれますか!」
そう告げてフロアのボルテージを上げ、『青くなくとも』へ。あなたがどんな日々を過ごしていようが、どんな場所にいようが、ブロークンが響かせる存在証明のギターロック。照明も、サビは青ではなく暖色系で照らす。あの時に染まることができなかった青よりも、クリアな色が僕らの思い出に一生残るのだ。
「まだまだいけるかい?」と藤井がハンドマイクに替えて、軽快なマーチングマーチ『幸福のすべて』へ。ここまでで一番高い位置でクラップが起こり、サビのコール&レスポンスも決まる。そして「今日を忘れられない日にできたら、こんなに幸せなことはないです。また絶対必ずお会いしましょう」とラストナンバー『ENDLESS』が鳴らされる。この多幸感をどこまでも未来に繋げるような広がりを見せるロックナンバーだ。「いけますか、箱庭!」という藤井の言葉に、eggmanにいる僕らは完全に、今日という日を未来に繋げていく共同体になったと感じた。「ありがとうございました。Broken my toyboxでしっっっっっった!」と締め、暖かな拍手の中、ライブは終了した。
ENCORE
アンコールで4人が再登場し、高田は「感動っすね」と感謝を述べる。藤井が「疲れてないですか?」と聞くとフロアから反応があったが、「俺の前では言わせないからな」と高田。ケンジと高田は…すいません同一人物です。
その後、8月のライブにて藤井が日付のみ口を滑らせ、SNSにも投稿されていた”2025年3月20日”の答え合わせを発表。答えは「SHIBUYA WWWでのワンマンライブ」。その発表にフロアは今日一番の盛り上がりを見せた。
「こういう曲を作るために私は歌を歌ってきたつもりです。私自身も噛み締めて歌うので、皆さんも味わっていただけたらと思います」と藤井が告げて、最新リリース曲『Stitch』をライブ初披露。誰にも聴かれないと思っていた彼らが、糸を編むように優しく満員のフロアと繋がっていくバラードだ。その感動も残る中、「ワンマンができるのは本当に皆さんのおかげです。でもWWWはまだゴールじゃない。その先も、先も、先も、みんなと良い景色を見ていきたいんですけど、ついてきてくれますか、皆さん!」と力強く伝え、フロアからは約束の拍手。最後に「我々には叶えたい理想郷があります。その理想郷の歌を」という言葉と共に、『Fantasia』が披露された。
様々なレシピを見せた本編では、ラスト『ENDLESS』でオーディエンスと共に未来を拓いたBroken my toybox。その未来をアンコール『Stitch』で改めて紡ぎ、推進力のあるナンバー『Fantasia』に背中を押され、私たちは今、歩き出した。この物語は、Broken my toyboxの4人と共にまだまだ続く。
【Setlist】
1. 桃源郷へようこそ
2. Up to
3. メロディーメーカー
4. スクラップアンドビルド
5. Tasty
6. Float
7. 椿の唄
8. かけがえのないなどない
9. DAYBREAK IT(iCOカバー)
10. コピーライト
11. 車窓
12. 青くなくとも
13. 幸福のすべて
14. ENDLESS
En1. Stitch
En2. Fantasia