
退屈に見える営みの鬱憤を吹き飛ばすため、鋭利なアンサンブルを打ち鳴らす京都発の3人組・追い風、朝。「へつらうことなく正直な音楽を作るバンド」と自らを称した彼らは、こびることなく、ひたすらに焦燥を、そして寂寞を叫んでいる。
2025年5月に産み落とした1st EP『kizashi』をひとつの転換点に、自らの手でこの世界にトーチを灯さんと、願った通りの朝日を手繰り寄せんとストラグルをはじめた追い風、朝。そんな彼らの実像に迫る初インタビュー。
さよならポエジーやLOSTAGEからの影響。
「歌と演奏、歌詞全てを大切にしたい」

僕は中学の頃から弾き語りをしており、高校に上がったタイミングからバンドをやりたかったんですが、田舎の学校だったため周りに楽器を触る人間も少なく、ずっとくすぶっていました。大学に入り、軽音サークルの新歓などにも行きましたが、どういうことかさっぱり馴染めず…。そこでもバンドを組む機会を逃しました。でも2年前に意を決して自分なりに人を集め、そこで人生で初めて組んだバンドが追い風、朝です。(ニシヤマ ショウヤ -Vo./Gt.)
春風。空っ風。追い風。雨や雲と同様に数々の名を与えられた「風」という存在は、ループする季節の境界を、あるいは空虚でやるせないがらんどうの思いを、はたまた燃え盛るエネルギーを照射してきた。
そんな風という言葉を自らの名に冠し、2023年に産声を上げた京都発のスリーピースバンドが追い風、朝である。ニシヤマ ショウマ(Vo./Gt.)、ニシヤマ エイジ(Ba.)、オカムラ ミナコ(Dr.)の3人で構成される。
教会の鐘を歪ませたみたいな静けさと、いてつくフィールを兼ね備える3人の音像。そのバックグラウンドには、さよならポエジーやLOSTAGE、SEMENTOSをはじめ、退屈なんて言い切れるほどに淀み切ったわけではない、しかしなぜだか晴れやらぬ日々の深層に切り込む作品を生み出し続けているバンドたちの存在があるという。
自分はメロコアからオルタナまで幅広く聴くタイプなんですが、大きく影響を受けたのはさよならポエジー、LOSTAGE、Maki、あとcetowです。ベースはMakiの影響を受けて始めました。(ニシヤマ エイジ -Ba.)
中学の頃、当時流行していたback numberの弾き語りをやりたい一心で、ギターを始めました。その後、高校生の頃にMy Hair is Badを知り、それがきっかけでバンドをやりたいと思うようになりました。
現在の追い風、朝が一番影響を受けたのはさよならポエジーです。彼らのライブを初めて観た時の衝撃は今でも鮮明に覚えています。バンド結成以前はもっと無骨なロックを目指しており、オルタナやエモ、ポストロックといった系譜の音楽には一切触れたことがなかったんですが、さよならポエジーをきっかけに音楽の視野がかなり広がりました。
そこからSEMENTOS、LOSTAGE、ゆれる、downt、mabutaといったバンドを知り、自分が良しとする活動の在り方を学びました。自分たちも彼らと同じように、歌と演奏、歌詞全てを大切にしたい。とにかく今はいろんな音楽が好きで、それらを自分たちの音楽にいかに落とし込んでいくかを考えています。(ニシヤマ ショウヤ)
「今後僕たちに訪れる変化の予兆が、少しだけ見えたような作品になった」
1st EP『kizashi』

そんな追い風、朝は、2025年5月に1st EP『kizashi』をドロップした。ハウリングから一時の静寂を経て鳴らされる数撃が、表題にふさわしい明け方の光を連れてくるオープニングナンバー「kizashi」。この楽曲で幕を上げる同作は、彼らが敬愛するさよならポエジーの一節を拝借すれば〈時代よ 僕を選んでくれないか〉(「その一閃」)とでも言うような、かそけき光と願い、そして反抗を宿している。
ただ、「kizashi」という楽曲がその目に捉えている「時代」とは、何千万人もを包含した、いわば世間様と同値ではなく、彼らのミュージックへ辿り着いたあなたのことであり、君のことであろう。
それは、名声と賞賛を渇望していた自身を振り返り、〈亡骸になるその日まで 何も背負わずに走ろう〉と一心不乱に駆け抜けることを宣誓する「泣骸」からも、〈駄作に囲まれたこの生活と 戦う為に 気兼ねなく話すよ〉〈機微穿つように 隙間で鳴らすよ この街の隅で まだ、また〉と2本足で踏みしめたこの場所からこの歌を響かせることを心に決める「隙間から」からも明らか。来たるべき羽化の先で、「この道よ、重なれ」と、「約束と再会を繰り返す日々よ、続け」と彼らは叫んでいるのだ。
個人的には、全体的にバランスの取れた一枚になったと思います。どれも良い曲なのでもっとたくさんの人に聴いてもらいたい一枚です。(ニシヤマ エイジ)
「kizashi」の字の如く、今後僕たちに訪れる変化の予兆が、少しだけ見えたような作品になったと思います。ここまでの期間、いかにして「追い風、朝らしさ」を出していくかを考えていました。色んな曲を作ってはボツになり、ライブを通して出来上がったアレンジもこの作品に詰め込まれています。このEPを聴いてくれた方々が、少しでも僕らだけの何かを感じ取ってくれれば、それが一番嬉しいです。(ニシヤマ ショウヤ)
「気怠いだけの日が続いても、そんな鬱憤は風が共に遥か遠くへと持っていってくれる」

収録曲「五月」で、〈街中を包み込んだ 春の風 俺だけをあしらい はるかと遠くへ〉〈目を逸らせば 棘のついた言葉たち それたちも 風のよう過ぎ去ってくれ〉と歌われているように、あるいは彼らのその名からも窺えるように、追い風、朝の根底には、風という事象が深く根を張っている。不可視でありながらも、確かに存在する風は、ふらふらと揺れ動くだけの自身を正し、背筋を伸ばさせる先達なのかもしれない。
身近な物に対する見方を変え、それを歌詞にすることが好きで、その一環で風という言葉をよく使っています。特に風を全面的に押し出そうとかは全く考えていないんですが、バンド名にも表れているくらい、僕が無意識に好んでいるのだと思います。
風ってどこから吹いて、最終的にどこへ向かうかなんて普段考えないじゃないですか。でも、それらにも生まれとゴールがしっかりあるんです。気怠いだけの日が続いても、そんな鬱憤は風が共に遥か遠くへと持っていってくれる。こんな好都合な理由で生まれていたのならいいな。そんなことも思ってしまいます。(ニシヤマ ショウヤ)

1st EPで見え始めた灯火を大きなものにするべく、BAN’S ENCOUNTERを招いた自主企画『Chapter “1”』やZOO KEEPERとの共同企画『“alter” native』を展開している追い風、朝。ニシヤマショウヤが「ひたすらに長いことこのバンドを続けたい」と語ってくれたように、ちょっとやそっとじゃ傷つかない信念を抱いた彼らの音楽は、遠くない未来で旋風を巻き起こすはずだ。
僕たちの音楽で救われてほしい、なんて偉そうなことは思っていません。生活の一部になってほしいとも考えますけど、結局のところ僕たち3人が楽しみながら活動し、お客さんが「なんかこいつらええやん」となるような関係が一番理想的なのかも知れません。
音楽は本当に未知で溢れています。だからこそ、深掘りしすぎると自分が何のために音楽に触れているのかを見失い、気づけば音楽を聴いている自分を棚に上げて、他人を笑うようなことが起きてしまいます。一旦複雑なことは度外視し、素直な気持ちで追い風、朝を聴いていただけると嬉しいです。(ニシヤマ ショウヤ)
(取材/文・横堀つばさ)
PROFILE

追い風、朝
2023年、京都にて活動開始。生き様そのものを根底とし、へつらうことなく正直な音楽を作るバンド。
メンバー
ニシヤマ ショウマ(Vocal / Guitar)
ニシヤマ エイジ(Bass)
オカムラ ミナコ(Drums)
活動開始
2023年
主な活動拠点
京都府
HP / SNS
X @oikaze_asa
Instagram @oikaze_asa
YouTube @追い風、朝
TikTok @oikaze.asa_
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