
自身の感情が風化しないことを願い、作品を生み出すという行為は、アーティストにとって健全な欲求と言えよう。それだけではなく、写真を撮ることだって、日記を書くことだって、SNSに思いの丈を綴ることだって、現在を瓶に詰め、未来へ流す行動のはず。
2024年5月に結成された3人組・Now emitters!!(ナウ エミッターズ)は、そうしたリアルタイムの情動を、インタビュー中の言葉を借りれば「10代20代特有のピュアな怒り」を、ダイレクトに鳴らしているバンドだ。フラストレーションをただ爆発させるのではなく、エモやオルタナティブロックの血統を継いだ音像に乗せて、粛々と積み上げていくのが彼らの筆法。
2025年7月に両A面シングル『激動の果てに/地図にない街』を投下し、車輪の回転を加速し始めたNow emitters!!の最新形を解剖する。
Now emitters!!が鳴らす、苦しみを共に分かち合う音楽

もともと専門学校に入学したタイミングでバンドを組みたいと思っていたので、メンバーを探していて。そうした中、授業が同じだったことで話す機会も多かったベースのHarukiとドラムのNakanoを誘って、Now emitters!!を結成しました。(Takara -Vo./Gt.)
2024年5月に生を受けたフロム東京の3ピースバンド・Now emitters!!。専門学校での出会いを機に結成されたこのバンドは、ONE OK ROCK やNUMBER GIRLを影響元に、「邦楽としての良質さや純粋さの追求」をお守りとしてきた。
彼らがこうした旗を掲げた一因は、サカナクションの「ミュージック」。〈だらしなくて弱い僕だって 歌い続けるよ〉という同ナンバーの一節からも窺える、共に悩み、同じ視線を分かち合わんとする姿勢は、3人の中にも流れているのである。
音楽を始めたきっかけは中学生の頃にONE OK ROCKのDVDを観たことだと思います。そこからロックバンドに限らず、ハウスミュージックやクラシックをはじめ、色々な音楽を聴くようになりました。
音楽が人間に提供し得る価値は沢山あると思うんですけれど、その中でもサカナクションの「ミュージック」という曲を聴いた時、その曲しか聴けないくらいにハマってしまって。その曲を機に、作者と苦しみを共にしているかのような共感作用やそこから生まれる独特なカタルシスこそ、音楽において大事にすべき部分だという確信を得るようになったんです。
その流れでASIAN KUNG-FU GENERATIONやNUMBER GIRL、ハヌマーン、さよならポエジー、洋楽だと90年代のエモと呼ばれるジャンルやそれに影響を受けたバンドから多大に影響を受けるようになりましたね。(Takara -Vo./Gt.)
音楽を始めたきっかけは、高校の友人の誘いで軽音部に入ったことでした。ベース以外の楽器が上手い人が揃っていたので、自分がベースをやればバンドが組めると思い、ベースを始めましたね。ELLEGARDENやNUMBER GIRLなど、1990年代から2000年代のバンドに影響を受けています。(Haruki -Ba.)
高校の頃、先輩たちがステージで演奏している様子を観たことが音楽を本格的に始めるきっかけでした。ドラムはもともとやっていたのですが、先輩たちのステージをきっかけに、人前で演奏することを意識するようになったんです。影響を受けたのは、初期のONE OK ROCKやMy Chemical Romanceをはじめ、2000年初期から2010年代のエモやスクリーモのバンドですね。(Nakano -Dr.)
ままならない時代にただ欲しかったものを歌う『激動の果てに/地図にない街』
「激動の果てに」
Now emitters!!
Now emitters!!が2025年7月にドロップした1stシングルが『激動の果てに/地図にない街』だ。バンド初となるMV曲とも相成った「激動の果てに」は、寸分のズレなく鳴らされるバスドラムとベースが形成するリズム上でTakaraの歌声が頬を撫でる低体温なAメロと、エモやオルタナティブを本軸とする彼ららしい鉄の匂い香るギターから終結へ加速していく構成がシンボリックな1曲。
〈くたびれたこの時代には中身が足りない〉〈誰も気づかない傷から気持ちが溢れてる〉とどことなく蔓延るやるせなさや蟻地獄みたいに緩やかに足を取られていく気配を鋭い批評性を持って射抜きつつ、〈何もいらない夢の続きがあればいい 激動の今を抱きしめて手放した〉の1ラインへと手を伸ばしていく。
しかし彼らは、点火した8ビート上だからといって、決してこのパンチラインを張り上げはしない。事実を述べるように、あるいは然るべき場所へワードを収めるように、淡々と言葉を並べていく。
とはいえ、Now emitters!!は現実を放棄し、諦め、無常の流れに呑まれることを是としているわけではないだろう。〈誰か教えてくれたら 笑っていられたかな〉〈何もいらない夢の続きがあればいい〉と綴られた歌詞からもクリアに浮かび上がってくる通り、3人はかそけき夢や理想が、たった1人の存在が、窓から見える風景を色づけるのだと知っている。だからこそ、彼らが断言した2025年に夢を抱き続けることの尊さは、ちょっとやそっとじゃ「大丈夫」なんて言ってくれない人が送ってくれた「大丈夫」のエールのように、不動の強度を誇っているのだ。
「地図にない街」
Now emitters!!
こうした無闇に雲の糸を手繰り寄せるのではなく、自らで下した決定に従って飛翔せんとするスタンスは、続く「地図にない街」をも貫くもの。〈地図にない街をゆけ 闇の中目が慣れたら どうせ善も悪も目には見えないままさ〉〈地図にない街をゆけ 闇の中私を見つけて 答えのないことで迷い続けているんだね〉というリリックを筆頭に、思う存分レールから外れて道を開拓せよと、君とお前が信じたいものを惑わされずに信じ通せと確かに告げている。
パーソナルな気持ちを描きながらもそれを大きな世界観にできたので、やりたかったテーマとしてはクリアできた気がしています。もっとサウンド面でやれることがあったのではないかという後悔はありつつも、自分たちの等身大を出せましたし、不完全な感じも含めて楽しんでもらえたら嬉しいです。(Takara)
「独善的な感情の吐露になってしまったらそこから何も生まれない」

〈分かり合えないのなら死んでしまおうか まどろむ街と不甲斐ない僕だ〉としたためられた「エル」をはじめ、過去のディスコグラフィーでも、ディストピアに似た時代とそこに生きる私を描いてきたNow emitters!!。その筆さばきのバックグランドには、あらゆる縛りから解放される夢想的な世界と、数々のしがらみに巻き付かれる現実のギャップに対する思いがあるという。
SFは全然詳しい訳ではないですが、SFというジャンルで括られる小説や映画はよく観ます。恐らく夢想的な世界観が好きなんだと思います。そのようなフィクションの中で実現できても現実で外れることのない制約が、時間と自己とを取り巻く世界で、それに対するブルースとして歌詞を作っている感覚です。(Takara)
行き詰ったように見えるリアルの隙間を縫って、まだ見ぬルートへ信念を切々とパッケージングする彼らの音色。emitter――放出するもの。吐くもの。「語感の良さから名付けた」と語ってくれたNow emitters!!というバンド名は、頭を抱えながらもこの瞬間を生き抜き、その中で気づいた失いたくないものたちを留めておこうとする彼らのミュージックにふさわしかった。
初期衝動や熱量が見え隠れする曲が多いと思いますし、10代20代特有のピュアな怒りみたいなものをうまく昇華できたらなと考えています。でも、独善的な感情の吐露になってしまったらそこから何も生まれないので。思いや余熱をただ繋ぎ止めておくような、そういう音楽をやっていきたいと思っています。(Takara)

(取材/文・横堀つばさ)
PROFILE

Now emitters!!
(ナウ エミッターズ)
2024年5月結成、東京を拠点に活動する3ピースバンド。エモ、オルタナティブを基調に邦楽としての良質さや純粋さを追求している。
メンバー
Takara(Vocal / Guitar)
Haruki(Bass)
Nakano(Drums)
活動開始
2024年
主な活動拠点
東京都
HP / SNS
X @nowemitters
Instagram @now_emitters
YouTube @Nowemitters
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