2017年に香川・高松で結成され、今日までマイペースながらも確かな歩みで活動を続けてきたオルタナティブ3ピースバンド・kinderwalls(キンダーウォールズ)。
そんな彼らが結成7年目を迎えた今年2024年、レーベル・A Ray of Lightより初のフルアルバムとなる『パンスペルミア』を4月3日にリリースした。
此度の新作は、シーンに造詣の深い音楽フリークが注視するFLAKE RECORDSやLONG PARTY RECORDSといったレーベルショップをはじめ、全国のタワーレコードでも取り扱われる。
従来は拠点香川を中心に、四国近辺でのライブハウスにおける活動がメインだった彼ら。平凡で代わり映えのしない日々に柔らかい眼差しを向け、そこで見つけた軌跡の欠片を轟音のバンドサウンドに包み、ついに遠く彼方へと響かせ始める。
各々が積み重ねた経験を持ち寄り生まれた、kinderwallsという生き物
「3人とも結成までは各々別のバンドをしていました。自分が以前のバンドを抜ける際にベースボーカルでバンドをしたいと思い、2人に声をかけたのがきっかけです。
ドラムのまこちん(ワタナベマコ)は大学のサークルの同期で、ハヌマーンやNUMBERGIRLを一緒にコピーしていました。新しいバンドのドラムは彼女しかといないと思い、真っ先に誘いました。
ギターのしょーちゃん(カワノショウタ)は徳島の大学の後輩です。自分の前のバンドのボーカルが徳島大学のgreensというサークルに所属しており、よくそこでライブをする機会もあって、その縁で徐々に仲良くなりました。バンドを始める際にイメージしたギターサウンドに、まさにドンピシャなギタリストだったんです」
バンドのフロント、Vo./Ba.マナベナオトは3人の出会いをそう語る。
他の地域に比べてアクセシビリティが低いなど様々な外的要因ゆえに、交流も狭くなりがちな四国のライブハウスシーン。しかし中には互いの音楽性へ深いリスペクトを持ち、県境を越えた強い繋がりや独自のシーンを形成するバンドたちも存在する。
特にハードコア・オルタナティブサウンドを軸に置くバンド間には、高松のライブハウス・TOONICEを拠点にそういった交流も盛んに行われる印象だ。kinderwallsもまた、そんな縁ときっかけの元に集ったバンドのひとつである。
「個人的には、コード一音鳴らして昇天できるバンドに元来憧れがあります。TEENAGE FANCLUB、Summercamp、HUM、SUPERCHUNKなどの音楽性は、結成時からどうにか自分たちなりに落とし込みたいなと思ってます。
曲は基本的に自分がギターで基礎を作ってそれをメンバーで膨らませるのですが、コードワークはかなり意識します。自分一人で考える時もアコギやエレキ、ガットギターで鳴らし比べて、そのコードの質感みたいなものを確かめたりして。硬派でソリッドだけど温度感を出せるようなサウンドというか、よくわかんけど良いっていう音を探しています」
自らはベースプレイヤーでありつつも、バンドの音の質感に対するこだわりの比重はギターサウンドに置くマナベ。
竿2本で構成されるコードの響きには強く“束感”を意識している点も、その言葉からはうかがえる。バンドの音を聴く上でも、ぜひ耳を傾けて欲しいポイントだ。
轟然と鳴り響く音像の芯にある、柔く優しい日々への愛おしさ
『懐に沸いて』
kinderwalls
今年4月3日にリリースされた、1st full album『パンスペルミア』。以前にもバンドとしては自主製作音源をリリースしているが、今回の新譜制作の経緯を彼はこう話す。
「活動2年目に出した『リーフカレント』から曲も増え、『新曲群録りたいね』とメンバーと話していた際、今回リリースを手伝ってくれたアラヤさん(A Ray of Light)と出会いまして。嬉しいことに『一緒に出しませんか』とお話をもらい動き始めたのですが、直後にコロナ禍に入ってしまったんです。
その中でも『What We Can Do』というコンピレーションアルバム(各地方のバンドが地元ライブハウスで録った音源を収録した作品)に声をかけてもらったりと、コンスタントに連絡は取っていて。その間にフルアルバムを録りたいという思いが沸々と出てきて、それを今回やっと形にできた感じです。
収録したLMスタジオさんもバンドで初めて大阪でスタジオライブをした場所ですし、スタジオやエンジニアの須田さんの作品の中にも、自分たちがこれまで触れてきたものが多くて。足掛けの時間は長かったですが、そういった縁のある場所で録れてよかったです」
全国各地無数にある他のバンドと同様、世界的なパンデミックでその歩みを止めざるを得なかったkinderwalls。横を見れば、猛威を振るった感染症によって、立ち消えた縁や機会損失を抱えるバンドも数多存在する。
しかしその中でもこうして小さな縁を繋ぎ留め今に至るのは、彼らがそんな些細な何気ないものにこそ心を傾け、大事に拾い上げることに重きを置くからに他ならない。
「パンスペルミアというタイトルは、もともとこの曲群でアルバムを録ると決めた時から固まっていました。パンスペルミアとは、『地球の生命の起源は地球ではなく、宇宙にあった生命の元から来ている』という説のことです。
自分が香川で暮らして音楽活動をするのは、普段生きてたら誰にも知られず忘れ去られるような感覚・記憶を、周囲の人が曲にしたものに刺激を受けているからなので。つまるところオルタナティブって、『外来由来をどこまでないまぜにするか』だと思うんです。
前作の『リーフカレント』は生活の変化を海流で表せたら……というテーマでしたが、今回は“埋め草”を含む再録もあるので、そこを踏まえて見え方の変化を『パンスペルミア』という言葉で醸し出せたらと思いコンセプトに据えました。個人的に気に入ってるのは、M5~M8の“美しき待機”、“懐に沸いて”、“北帰行”、“埋め草”の流れ。今の自分たちっぽいな、と気に入ってます」
暮らしの中で漣のように広がる、ささやかな感情の機微。あるいは数分後には忘れてしまうような、ありふれた景色や誰かの言葉。
日々の営みに転がる軌跡の欠片を拾い集め、丁寧に日々を紡ぐ。激しくも重厚なバンドサウンドの中には、それでも確かな人の温かさと柔らかさが横たわっている。
『北帰行』
kinderwalls
マナベにこれからの目標を尋ねると、こんな言葉が返ってきた。
「よくライブMCでも言ってますが、自分が一番生活を豊かに思ったり、甲斐があるなと心の底から思えるのは、友達の新しい曲に感動したり、そこに自分たちが影響を受けたり与えたりする瞬間なので。そのためにも自分たちと他者への興味は枯らさないようにしたいです。目標や挑戦とは少しニュアンスが違うかもしれませんが、これって結構難しいことだと思うので」
今作『パンスペルミア』に収録されている「diaspora」「懐に沸いて」「埋め草」の3曲は、サブスクでも配信中。フィジカルは各ショップや、各地で開催されるライブ物販にて購入できる。
当たり前のように、今の自分を取り囲むもの。それでも間違いなく、今の自分を形作るもの。それらに思いを馳せる、束の間のひと時をくれる。kinderwallsの轟音は、誰しもに等しくどこまでも優しい。
MESSAGE 手前味噌ですが、とても良い作品が出来たと思っています。 是非とも生活の隙間に、耳を貸してもらえると嬉しいです。
(文・曽我美なつめ)
PROFILE
kinderwalls(キンダーウォールズ)
香川県・高松スリーピースロックバンド。爆音に乗る情緒、やり切れなさ、諦めの悪さ、心が揺れるその一瞬を紡いだサウンドスケープ。生活する中で見つけた「これまで」と「これから」を鳴らすバンド。
メンバー
L→R
ワタナベマコ(Drums / Keyboard)
カワノショウタ(Guitar)
マナベナオト(Vocal / Bass)
活動開始
2017年
主な活動拠点
香川県高松市
HP / SNS
X @kinderwalls
YouTube @kinderwalls6388
LIVE
SAYONARAPOESIE
“4th ALBUM「SUNG LEGACY」Release Tour『NO』”
2024.6.30(日) 高松TOONICE
w/ さよならポエジー/裸体/THE FOREVER YOUNG
チケットはこちら
kinderwalls
1st full album “パンスペルミア” release tour
2024.7.14(日) 新宿NINE SPICES
w/ MEAT EATERS/SEMENTOS/+1band
チケットはこちら
RELEASE
1st full album
『パンスペルミア』
kinderwalls
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